お客様の送迎をするか|好意で始める前に、保険と料金の区分を確認する
公開: 2026年8月26日
Summary
通えなくなりそうな方を車で送迎すべきか迷ったときの整理です。車の保険の使用目的、料金を受け取る形にしないこと、送迎の前に試せる4つの方法、受けるときの条件と断る基準、往復の時間を枠に入れる計算、やめ方までを扱います。
「足が悪くなってきてね。もう来られないかもしれない」と言われました。20年通ってくださっている方です。車で15分ほどの距離ですから、迎えに行けば済む話に思えました。その場で「送りますよ」と言いそうになりました。
けれども、送迎というのは、好意で始めて好意で終われるものではありません。車に人を乗せた時点で、事故が起きたときの責任が生まれます。無償だから軽くなる、ということもありません。そして責任は、いちばん助けたかったその方にも及びます。
やらないほうがよい、という話ではありません。始める前に確認する順番があり、そこを飛ばすと、助けたかった相手を巻き込むことになる。それだけの話です。順番さえ守れば、選択肢として十分に成り立ちます。
確認する順番を、間違えない
先に決めるのは、やるかどうかではありません。何を確認するかの順番です。
見るのは3つです。
- 車の保険が、その使い方を想定しているか
- 料金の受け取り方が問題にならないか
- 続けられる件数かどうか
この3つのうち、1つでも答えが出ていないなら、始めないでください。始めてから確認すると、途中でやめることになります。そして途中でやめるのは、最初から断るよりずっと相手を落胆させます。
そして、どれも1日で終わる作業です。保険会社に電話し、窓口に聞き、自分の週の予定を数える。それだけのことです。
車の保険の区分を確認する
最初に、契約している保険会社へ連絡してください。
伝えるのは、実際の使い方です。お客様を店まで乗せる、週に何回くらい、この範囲で。「もし送迎をするとしたら」という仮定ではなく、そのまま説明してください。仮定で聞くと、答えも一般論で返ってきます。
保険には使用目的の区分があり、申告した内容と実際の使い方が違うと、支払いに影響する場合があります。どう扱われるかは契約の内容によって変わりますので、必ず自分の契約で確認してください。
そして、確認した内容は書き留めてください。いつ、誰に、何と言われたか。この3つが揃っていれば、あとから確かめられます。担当の方が替われば、説明が変わることもあります。
なお、これは施術に関する保険とは別の話です。施術者の賠償責任保険は、車の事故を対象にしません。施術側の保険の考え方はサロン向け施術者賠償責任保険 完全ガイドで整理しています。
料金の受け取り方で、話が変わる
ここが、いちばん見落とされやすいところです。
人を乗せて運び、その対価を受け取る形は、旅客の運送に関わる話になりえます。許可や登録が必要になる場合がありますので、こちらで判断しないでください。
そして、無償であれば必ず問題にならない、とも言い切れません。施術の料金に送迎ぶんが含まれていると見られる場合があるためです。「タダでやっているのだから」という理屈が、そのまま通るとはかぎりません。
判断に迷う場面があれば、運輸支局や自治体の窓口に確認してください。ここでも、実際の運び方と、料金をどう受け取っているかを具体的に説明したうえで聞くのが確実です。
そして、送迎込みの料金にしないでください。メニュー表に載せると、対価であることがはっきりします。始めるにしても、施術料とは切り離した形にしておいてください。
先に、送迎をしない選択を並べる
送迎の前にできることが、実はいくつも残っている場合があります。
駐車場の近い区画を案内する、入口まで出る、荷物を持つ。これだけで通い続けられる方がいます。「歩く距離が長い」ことが理由なのであれば、車で迎えに行かなくても解決できます。駐車の案内のしかたはサロンの駐車場の案内で整理しています。
予約の時間を変えるという方法もあります。人が少ない時間帯であれば、ゆっくり動いていただけます。急かされている感じがあるだけで、来店そのものが億劫になることがあります。
タクシーを呼ぶところまでを手伝う形もあります。料金はご本人が払う形にすれば、対価の話にはなりません。電話をかけるのが面倒だから足が遠のく、という方は少なくありません。
ご家族が送ってこられる日に予約を合わせる、という調整もできます。まず、家族に頼める状況かどうかを聞いてみてください。
これらを試したうえで、それでも難しい場合に、初めて送迎の話になります。
受けると決めたときの条件
条件を決めずに始めないでください。決めていない部分から、必ず広がります。
まず、運転する人を決めてください。自分だけにしてください。理由はあとで述べます。
次に、範囲を決めます。車で何分まで、どの方向まで。地図に線を引いておくと、迷いません。頭の中の基準は、頼まれるたびに揺れます。
曜日と時間帯も決めてください。空いている時間に限定すれば、他の予約に影響しません。
そして、件数の上限を決めてください。週に何件までなら続けられるか。ここを決めておかないと、増えたときに断る理由がなくなります。
いちばん危ないのは、乗り降り
走行中よりも、乗り降りのほうが事故は起きます。ここを軽く見ないでください。
玄関から車までのあいだに段差があるか、確認してください。雨の日は、そこが滑ります。晴れた日に一度歩いてみるだけでは足りません。
どこまで手を貸すかも、先に決めてください。体を支えるのか、手を添えるだけなのか。支えたまま転倒すると、双方が怪我をします。支えている側のほうが大きな怪我をすることもあります。
車のドアの開閉も、決めておいてください。開けたまま待つのか、閉めてから回るのか。動作を決めておくと、慌てません。
なお、乗り降りに人の手が要る状態であれば、それは送迎で解決する段階ではありません。次の項目で扱います。
車の側の用意
自分の車をそのまま使う前に、見ておくところがあります。
まず、座面の高さです。低い車は、乗り込むより降りるほうが大変です。地面から座面までの高さが立ち上がる姿勢に近いほど、負担は小さくなります。ここは車種によって大きく違います。
つかまる場所があるかも見てください。手を掛けられる取っ手がない車種があります。
助手席と後部座席の、どちらに座っていただくかも決めてください。乗り降りのしやすさと、歩道側から乗れるかどうかで変わります。道路側から乗せる形は避けてください。
そして、施術後に乗られることも考えておいてください。座席の汚れを気にされる方がいます。掛けるものを1枚積んでおくだけで、気兼ねが減ります。
往復の時間を、枠に入れる
ここを計算しないまま始めると、1日が回らなくなります。
片道15分なら、往復で30分です。そこに乗り降りと、玄関先での短い会話の時間が乗ります。実際には、1件の送迎で40分から50分が消えると考えたほうが現実に近くなります。
その時間は、施術ができない時間です。1枠ぶんが埋まっていると考えて、予約表に入れてください。頭の中で管理していると、必ずそこに予約を詰め込みます。そして押した状態で運転することになります。
そして、その40分を売上に直してみてください。数字にすると、週に何件までなら続けられるかが自然に決まります。件数の上限は、気持ちではなく、この数字で決めてください。
断る基準を、先に決める
始める前に、断る条件を言葉にしておいてください。
一人で乗り降りできない場合は、受けないでください。こちらは運転手であって、介助の専門ではありません。ここを曖昧にすると、責任の範囲が際限なく広がります。
天候の基準も決めてください。大雨、雪、路面の凍結。中止すると決めた日は、施術の予約ごと動かします。送迎だけ中止して来ていただく形にすると、結局その方が無理をします。
体調が普段と違うと言われた日も、無理をしないでください。車の中で何かあっても、すぐには対応できません。
そして、断ると決めたときは、代わりの案を出してください。断ることと、突き放すことは違います。
特定の方だけになる、という問題
これは必ず起きます。先に考えておいてください。
他の方に知られたときに、何と答えるかを決めておいてください。「以前からお願いされていて」という答え方だと、頼めば受けてもらえるという印象になります。条件を答えられる形にしておいてください。範囲と曜日を決めてあれば、それを言えば済みます。
「私もお願いしたい」と言われたときの答えも決めておきます。件数の上限を決めてあるなら、それがそのまま答えになります。
そして、条件に合う方には受ける、合わない方には受けない、という形を保ってください。人によって基準が変わると、そこから崩れます。そして崩れたことは、必ず伝わります。
スタッフには頼まない
これは、はっきり決めてください。
業務として指示すれば、その時間は労働時間になります。事故が起きたときの責任も、店に及びます。
善意でお願いする形も避けてください。断りにくい立場の人に頼むことになりますし、本人が「いいですよ」と言ったとしても、その言葉に断る自由があったとはかぎりません。
そして、自分が休みの日は送迎も休みにしてください。代わりを立てないことが、この線を守る唯一の方法です。
やめるときのほうが、難しい
始めるより、やめるほうがずっと難しくなります。ここを先に決めておいてください。
期間を区切ってください。半年ごとに見直す、と決めておけば、やめる話を切り出す機会が定期的に来ます。機会がないと、切り出すきっかけそのものが作れません。
やめる条件も書いておいてください。自分の体力が続かなくなったとき、件数が上限を超えたとき、保険の内容が変わったとき。あらかじめ書いてあれば、感情の話ではなく条件の話にできます。
そして、やめるときは代わりの案とセットで伝えてください。何もない状態で終わりにすると、来店そのものが止まります。送迎をやめることが、そのままその方を失うことになってしまいます。
ご家族との関係
家族がいる場合は、家族にも伝えてください。
送迎していること自体を知らない場合があります。事故が起きてから知ることになると、話がこじれます。「聞いていなかった」というところから始まる話し合いは、うまくいきません。
家族の送迎に切り替えられないかも、聞いてみてください。こちらから聞くと角が立つように感じますが、家族の側も気にしていて、言い出せずにいることがあります。
そして、緊急時の連絡先を預かっておいてください。車の中で体調が変わったときに、すぐ連絡できる形にしておきます。
事故が起きたら
順番を決めておいてください。慌てると、必ず何かを飛ばします。
まず、安全の確保と救急への連絡です。次に、警察への連絡。その後、保険会社と家族へ。
その場で責任の話をしないでください。「こちらの責任です」も「大丈夫です」も、どちらも言わないでください。言った言葉は残りますし、その時点では何が起きたのか正確には分かっていません。
そして、その日のうちに記録を書いてください。時刻、場所、状況、話した内容。時間が経つと、細部が自分の解釈に置き換わります。
記録に何を残すか
続けていると、記録が途絶えます。ここが落とし穴です。
残すのは、日時、区間、同乗の有無、そのときの体調です。1行で足ります。
いつもやっていることほど、記録されません。特別なことは書き留めても、毎週の習慣は書かなくなります。そして何かあったときに、何も残っていないという状態になります。
そして、記録は保険の確認をした日から始めてください。確認前の運行が混ざると、あとから整理できません。
こちらが行く形との比較
送迎の代わりに、こちらが伺うという選択もあります。
ただし、訪問して施術できる範囲は業種と地域によって定められています。所轄の保健所に確認してください。
考え方はサロンの出張・訪問施術の扱いで整理しています。送迎より制約は多いものの、車に人を乗せるという要素そのものが無くなります。ここは大きな違いです。
どちらが自分の店に合うかは、距離と件数で変わります。片方だけを検討するのではなく、両方を並べてから決めてください。
断ることは、冷たくない
最後に、これだけは書いておきます。
できないことを好意で始めて、途中でやめるほうが、相手を傷つけます。始めなければ、通い方の相談から一緒に考えられます。送るか送らないかの二択ではなく、どうすれば通い続けられるかという話にできます。
来られなくなる方への向き合い方はサロンの客層の高齢化で扱っています。送迎は、そのなかの1つの手段にすぎません。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 保険 | 実際の使い方を保険会社に説明して確認。回答を書き留める |
| 料金 | 対価として受け取る形にしない。窓口に確認する |
| 先にやること | 駐車の案内・入口まで出る・時間帯の調整・家族への相談 |
| 条件 | 運転は自分だけ/範囲/曜日と時間帯/件数の上限 |
| 断る基準 | 一人で乗り降りできない/悪天候/体調が普段と違う |
| やめ方 | 半年ごとに見直す。やめる条件を先に書く |
| 記録 | 日時・区間・同乗の有無・体調を1行で |
今日やる一つ
送迎を考える前に、契約している自動車保険の証券を出して、使用目的の欄を見てください。そこに書かれている区分と、これからやろうとしていることが合っているかどうか。合っていないのであれば、そこが最初の電話になります。証券を探すところから始めても、30分あれば終わります。
よくある質問
無償なら問題ありませんか
言い切れません。施術の料金に送迎ぶんが含まれていると見られる場合があります。実際の運び方と料金の受け取り方を具体的に説明したうえで、運輸支局や自治体の窓口に確認してください。
車の保険はそのままで大丈夫ですか
契約している保険会社に、実際の使い方を説明して確認してください。使用目的の申告と実際の使い方が違うと、支払いに影響する場合があります。仮定ではなく実際の使い方で聞き、回答は日付と担当の方の名前とあわせて書き留めてください。
送迎の前にできることはありますか
駐車場の近い区画を案内する、入口まで出る、荷物を持つ、予約を空いている時間帯に置く、タクシーを呼ぶところまで手伝う、家族が送れる日に予約を合わせる。これらを試してからでも遅くありません。「歩く距離が長い」ことが理由なら、車を出さずに解決できます。
スタッフに運転を頼んでよいですか
頼まないでください。業務として指示すればその時間は労働時間になり、事故のときの責任も店に及びます。善意でのお願いも、断りにくい立場の人に頼むことになります。本人が「いいですよ」と言っても、断る自由があったとはかぎりません。
何を断る基準にしますか
一人で乗り降りできない場合、悪天候、体調が普段と違う日。この3つを決めておいてください。天候で中止するときは、施術の予約ごと動かします。送迎だけ中止すると、結局その方が無理をします。
何件までなら受けられますか
片道15分でも、乗り降りと玄関先の会話を含めると1件で40分から50分が消えます。その時間を予約表に枠として入れ、売上に直してください。件数の上限は、気持ちではなくその数字で決まります。
他のお客様に知られたら
条件を答えられる形にしておいてください。範囲と曜日と件数の上限を決めてあれば、それがそのまま答えになります。人によって基準を変えると、そこから崩れますし、崩れたことは必ず伝わります。
乗り降りで気をつけることは
走行中より乗り降りのほうが事故は起きます。玄関から車までの段差、雨の日の滑りやすさ、どこまで手を貸すかを先に決めてください。支えたまま転倒すると双方が怪我をしますし、支えている側が大きな怪我をすることもあります。
やめたくなったらどうしますか
始める前に、半年ごとに見直すと決めておいてください。やめる条件(体力、件数、保険の内容の変化)も先に書いておきます。やめるときは代わりの案とセットで伝えてください。何もない状態で終わりにすると、来店そのものが止まります。
家族には伝えるべきですか
伝えてください。送迎していること自体を知らない場合があり、事故が起きてから知ると話がこじれます。家族の送迎に切り替えられないかも聞いてみてください。家族の側も気にしていて、言い出せずにいることがあります。
事故が起きたら何からしますか
安全の確保と救急への連絡、警察への連絡、その後に保険会社と家族です。その場で責任の話はしないでください。「こちらの責任です」も「大丈夫です」も言わないことです。その日のうちに、時刻・場所・状況・話した内容を記録します。
訪問して施術するほうがよいですか
車に人を乗せるという要素は無くなりますが、訪問して施術できる範囲は業種と地域によって定められています。所轄の保健所に確認したうえで、距離と件数で比べてください。片方だけでなく、両方を並べて検討することが大事です。



