自分の店の席を貸す|貸す側が決めておくこと
公開: 2026年8月25日
Summary
空いている席や時間帯を他の施術者に貸す側の視点で整理します。雇うこととの違い、貸す範囲、料金の3つの型、お客様がどちらのものになるか、予約の受け方、届出と保険、契約書に入れる項目、既存のお客様への影響、相性の確かめ方までを扱います。届出の要否は状況で変わるため断定していません。
平日の火曜と水曜、店の2台目の椅子はほとんど使っていません。人を雇うほどの仕事量はなく、かといって空けたままにしておくのももったいない。そう思っていたところに、独立を考えている知り合いの美容師から「あの席、貸してもらえませんか」と言われました。
悪くない話に思えました。空いている席が収入になり、こちらは何もしなくてよい。ところが、いざ考えはじめると分からないことばかりでした。いくらもらえばいいのか。薬剤は誰が買うのか。相手のお客様は誰のお客様なのか。
面貸しについての情報は、たいてい借りる側に向けて書かれています。契約書のひな形も、オーナー側が用意したものを借りる側が確認する、という前提です。貸す側が何を決めればよいのかは、あまり語られていません。
この記事では、自分の店の席を貸す側の視点で整理します。借りる側の見方は面貸し・シェアサロンの基本にありますので、両方を読むと全体が見えます。
雇うことと、貸すことの違い
まず、この2つを混ぜないでください。似ているようで、まったく別の関係です。
雇う場合、相手は指示に従って働きます。時間を決め、やり方を決め、その対価として給与を払います。そのぶん、社会保険や労働に関する義務が生じます。
貸す場合、相手は自分の判断で働きます。こちらは場所を提供し、その対価として場所代を受け取ります。指示はしません。
そして、ここがいちばん大事なところです。形だけ貸す契約にしておいて、実際には指示をしていると、実質は雇用だと見られる可能性があります。出勤の時間を決める、施術の内容を指定する、お客様を割り振る。こうしたことを重ねると、もう貸しているとは言えなくなります。
雇うか一人で続けるかという判断は人を雇うか、一人で続けるかで扱っています。貸すという選択は、その中間ではなく、別の道だと考えてください。
何を貸して、何を貸さないかを決める
「席を貸す」と言っても、実際に共有するものは席だけではありません。
一つひとつ決めてください。
- 施術の椅子と鏡
- シャンプー台
- 待合と受付
- 薬剤と消耗品
- タオルとリネン
- 予約を受ける仕組み
- 会計の手段
- 掃除の分担
このうち、もめやすいのが薬剤とタオルです。共有にすると、どちらがどれだけ使ったかが分からなくなります。最初は分けておくほうが、関係が保ちます。
面貸しで使う道具をどこまで自分で持つかという考え方は、借りる側から見た整理があります。貸す側としては、その裏返しを決めることになります。
料金の決め方には、3つの型がある
ここが、いちばん最初に聞かれるところです。
1つめは、固定です。月にいくら、日にいくらと決めます。こちらの収入が読みやすく、相手も計算しやすい形です。相手が売り上げても、こちらの取り分は変わりません。
2つめは、歩合です。相手の売上に対して、決めた割合を受け取ります。相手が少ない月はこちらも少なくなりますが、伸びれば一緒に伸びます。
3つめは、その組み合わせです。低めの固定に、一定を超えた分の歩合を足す形です。
どれが良いというより、何を優先するかで決まります。収入の安定を取るなら固定、相手と一緒に伸びたいなら歩合です。
ただし、歩合にする場合は、相手の売上を把握することになります。ここが微妙な点です。売上を管理しすぎると、指示に近づいていきます。数字の把握と、経営への口出しは、線を引いておいてください。
お客様は、どちらのものか
これが、いちばんもめるところです。そして、後回しにすると必ずこじれます。
相手が自分で集めたお客様と、こちらの店に元から来ていたお客様。この2つは、扱いが変わります。
前者は、相手のお客様です。相手が出ていくときには、一緒に移るのが自然です。
後者は難しくなります。こちらの店の常連の方が、貸している相手のほうへ移った場合。そのまま相手のお客様になるのか、こちらの店のお客様なのか。ここを決めていないと、退去のときに争いになります。
そして、顧客の情報をどう扱うかも決めてください。同じ台帳を使うのか、別々にするのか。同じにすると、退去のときに分けられなくなります。
台帳を分けると手間は増えますが、始めるときに分けておくほうが、あとで困りません。同じ台帳に入れてしまうと、退去のときに「どこまでが相手のお客様か」を1件ずつ判断することになります。
予約をどう受けるか
これも、先に決めておく必要があります。
別々に受ける形なら、話は単純です。相手は自分で予約を管理し、こちらは関与しません。ただ、同じ時間に鉢合わせる、席が足りなくなるといったことが起きます。
まとめて受ける形にすると、調整はしやすくなります。しかしその場合、こちらが相手の予約を管理することになります。誰をどちらに入れるかを決める立場になると、指示に近づきます。
現実的なのは、席と時間帯を先に割り当てておいて、その枠の中は相手が自由に使う形です。「火曜と水曜の2番席」と決めてしまえば、調整は最初の一度で済みます。
届出と資格の扱いを、確認する
ここは自己判断しないでください。
美容所や理容所として登録している店に、別の施術者が入る場合、開設者や管理をする者の扱いがどうなるかは、状況によって変わります。人数によって求められるものが変わることもあります。
そして、業種によっても違います。同じ場所でネイルやまつげを扱う場合の扱いは、また別です。自分の店がどの区分にあるかは業種別・美容所登録/保健所届出の要否早見表で整理しています。
いずれにしても、始める前に所轄の保健所へ相談してください。「うちの店に別の施術者が入ることになりそうなのですが」と伝えれば、必要な手続きを教えてもらえます。始めてから指摘されると、直すのが大変になります。
事故が起きたときの責任
相手の施術で何かあった場合、誰が対応するのか。決めておいてください。
原則としては、施術をした本人の責任になります。ただ、お客様から見れば同じ店で起きたことです。店の評判に響きますし、こちらに連絡が来ることもあります。
ですから、相手が保険に入っているかを確認してください。入っていない場合は、加入を条件にするという決め方もできます。
こちらの保険が、相手の施術まで対象にしているとはかぎりません。契約の内容を確認してください。考え方はサロン向け施術者賠償責任保険 完全ガイドで扱っています。
そして、設備が原因の事故は、また別です。シャンプー台が壊れた、床で滑った。この場合は、貸している側の責任になりうる部分があります。
契約書に書くこと
口約束で始めないでください。知り合いだからこそ、書いてください。
書く項目を並べます。
- 貸す範囲(席、設備、時間帯、曜日)
- 料金と、支払いの時期と方法
- 共用するものと、しないもの
- 光熱費や消耗品の分担
- 顧客の扱い(自分で集めた方、店の方)
- 予約の受け方
- 鍵と、入退室の方法
- 保険の加入
- 事故が起きたときの連絡と対応
- やめるときの予告期間
- 退去のときの原状の扱い
このうち、最後の2つを忘れないでください。始めるときには考えたくないところですが、決めていないと、やめるときに必ずもめます。
契約の条項そのものは面貸し契約で確認すべき条項で整理されています。借りる側に向けて書かれていますが、貸す側はその裏返しを用意することになります。
お金の受け取り方と、税務の扱い
受け取る場所代は、事業の収入になります。
そして、施術の売上とは性質が違うため、記帳の際に分けておいてください。分けておかないと、あとで「この店の売上はいくらか」を見るときに混ざります。
金額や消費税の扱いについては、状況によって変わります。受け取る額が増えてきた場合や、複数に貸す場合はとくに、専門家に一度確認してください。
なお、相手から受け取る形が「賃料」なのか「業務の対価」なのかによっても扱いが変わることがあります。契約の形を決める段階で、あわせて聞いておくと二度手間になりません。
既存のお客様への影響を見る
見落とされやすい点です。
これまで自分ひとりだった店に、別の人が入ります。お客様から見れば、店の雰囲気が変わります。
知らない人がいる、話し声が増える、待合が混む。どれも小さなことですが、静かな時間を求めて来ている方には影響します。
ですから、始める前に一言伝えておいてください。「火曜と水曜だけ、別の者が入ることになりました」。事前に聞いていれば、驚きません。何も言わずに始めると、来店のたびに戸惑わせます。
そして、相手のお客様が増えれば、待合や駐車場も混みます。物理的に足りるかを、先に確かめてください。
相性を、軽く見ない
同じ空間で、長い時間を一緒に過ごすことになります。
技術の考え方が違う、掃除の基準が違う、お客様への接し方が違う。どれも「間違い」ではありませんが、毎日目に入ると気になります。
ですから、始める前に、期間を区切ってください。3か月なり半年なり、まず試す期間を置く。合わなければ、そこで終わりにできます。
そして、細かいことほど先に決めてください。掃除の分担、備品の補充、音楽、休憩の場所。始まってから言い出すのは、はるかに難しくなります。
なお、知り合いだから大丈夫、とは考えないでください。友人として付き合うことと、同じ場所で働くことは別です。むしろ、知り合いのほうが言いにくくなります。
空いている席が、必ず埋まるとはかぎらない
最後に、期待の調整をしておきます。
相手にも、お客様を集める必要があります。独立したばかりの方であれば、最初の数か月は件数が伸びません。歩合の形にしている場合、こちらの収入も伸びません。
そして、続かないこともあります。相手が別の場所へ移る、独立して自分の店を持つ、そもそも合わなかった。いずれも普通に起きます。
ですから、この収入を固定費の支払いに組み込まないでください。あくまで上乗せとして扱うほうが安全です。
2店舗目を出すことと比べれば、投じる金額はまったく違います。ただ、どちらも「自分以外が売上を作る形」である点は同じで、思いどおりに動かないという性質も共通しています。自分が動けば結果が変わる、という感覚のままでいると、うまくいかない期間が長く感じられます。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 関係の性質 | 貸すのであれば指示をしない。実質が雇用にならないように |
| 貸す範囲 | 席・設備・時間帯・曜日。薬剤とタオルは分けるほうが無難 |
| 料金 | 固定/歩合/組み合わせ。歩合は売上の把握が必要になる |
| 顧客 | 相手が集めた方と、店の方。退去時の扱いを先に決める |
| 予約 | 席と時間帯を先に割り当て、枠の中は相手が自由に使う |
| 届出 | 自己判断せず、始める前に保健所へ相談する |
| 保険 | 相手の加入を確認。こちらの契約が相手の施術を含むかも確認 |
| 契約書 | やめるときの予告期間と、原状の扱いを必ず入れる |
今日やる一つ
空いている席と時間帯を、曜日ごとに書き出してください。何曜日の何時から何時まで、何席が空いているか。ここが具体的にならないかぎり、いくらで貸すかも決められません。書き出してみると、思っていたより短いこともあります。
よくある質問
雇うのと、貸すのは何が違いますか
雇う場合は指示に従って働いてもらい、対価として給与を払います。貸す場合は相手が自分の判断で働き、こちらは場所代を受け取ります。形だけ貸す契約にして実際には指示をしていると、実質は雇用だと見られる可能性があります。
何を貸すことになりますか
席だけではありません。シャンプー台、待合と受付、薬剤と消耗品、タオル、予約の仕組み、会計の手段、掃除の分担。一つひとつ決めてください。とくに薬剤とタオルは、共有にするとどちらがどれだけ使ったか分からなくなります。
料金はどう決めますか
固定、歩合、その組み合わせの3つがあります。収入の安定を取るなら固定、相手と一緒に伸びたいなら歩合です。ただし歩合にすると相手の売上を把握することになりますので、数字の把握と経営への口出しの線は引いておいてください。
お客様はどちらのものになりますか
相手が自分で集めた方は相手のお客様で、退去時には一緒に移るのが自然です。こちらの店の常連が相手へ移った場合が難しく、ここを決めていないと退去のときに争いになります。顧客台帳を同じにすると、分けられなくなります。
予約はどう受けますか
別々に受けると単純ですが、鉢合わせや席の不足が起きます。まとめて受けると調整しやすい反面、こちらが相手の予約を管理する立場になり、指示に近づきます。席と時間帯を先に割り当て、枠の中は相手が自由に使う形が現実的です。
届出は必要ですか
状況によって変わりますので、自己判断しないでください。開設者や管理をする者の扱い、人数による要件、業種による違いがあります。始める前に所轄の保健所へ相談してください。始めてから指摘されると、直すのが大変になります。
相手の施術で事故が起きたら
原則としては施術をした本人の責任ですが、お客様から見れば同じ店で起きたことです。相手が保険に入っているかを確認し、入っていなければ加入を条件にする決め方もできます。こちらの契約が相手の施術まで対象にしているとはかぎりません。
契約書には何を書きますか
貸す範囲、料金と支払い、共用するもの、光熱費の分担、顧客の扱い、予約の受け方、鍵、保険、事故時の対応、やめるときの予告期間、退去時の原状。最後の2つを忘れないでください。決めていないと、やめるときに必ずもめます。
受け取ったお金の扱いは
事業の収入になります。施術の売上とは性質が違いますので、記帳の際に分けておいてください。金額が増えてきた場合や複数に貸す場合は、消費税の扱いも含めて専門家に一度確認してください。
既存のお客様に影響はありますか
これまで自分ひとりだった店に別の人が入りますので、雰囲気は変わります。知らない人がいる、話し声が増える、待合が混む。始める前に一言伝えておいてください。何も言わずに始めると、来店のたびに戸惑わせます。
知り合いなので、口約束でもよいですか
知り合いだからこそ書いてください。友人として付き合うことと、同じ場所で働くことは別です。むしろ知り合いのほうが、あとから言い出しにくくなります。
合わなかったらどうしますか
始める前に、3か月なり半年なり試す期間を区切ってください。掃除の分担、備品の補充、音楽、休憩の場所といった細かいことほど、先に決めておいてください。始まってから言い出すのは、はるかに難しくなります。
確実に収入が増えますか
相手にもお客様を集める必要があり、独立したばかりであれば最初の数か月は伸びません。続かないことも普通に起きます。この収入を固定費の支払いに組み込まず、上乗せとして扱うほうが安全です。



