料金表に無いサービスをどうするか|昔からの一式を、時間と言葉から見直す
公開: 2026年8月26日
Summary
肩をもむ、耳のまわりを整える、蒸しタオルをもう1本。理容室に積み重なった料金表に無いサービスを、書き出して時間を測り、続ける・有料にする・やめるの3つに振り分ける手順を整理します。掲げる言葉の注意点と、急にやめないための伝え方まで扱います。
「前の店では肩ももんでくれたんだけどね」と言われました。うちでもやっていた時期はあります。ただ、いつの間にか、やる人とやらない人がいる状態になっていました。何分かかっているのかも、料金に入っているのかも、聞かれても誰も答えられません。
理容室には、料金表に載っていないサービスが少しずつ積み重なっていきます。肩をもむ、耳のまわりを整える、蒸しタオルをもう1本、頭を軽く流す。どれも喜ばれてきたものですし、その積み重ねが常連さんとの関係を作ってきたことも確かです。ただ一方で、これらは確実に時間を食い、人によって差が生まれ、掲げ方によっては表現に気をつける必要があるものも混じっています。
この記事は、それをやめましょうという話ではありません。何を続け、何を料金に入れ、何を外すのか。他人に決められる前に、自分で決めるための整理です。決めていないものは、忙しい日に勝手に消えたり、逆に膨らんだりします。
まず、何をやっているかを書き出す
決める前に、いま出しているものをすべて並べてください。頭の中にある状態のままでは、比べることも減らすこともできません。
書き出すのは、料金表に載っていないのに実際にやっていることです。肩をもむ、耳のまわりを剃る、蒸しタオルを追加する、眉を整える、耳の外側を拭く、髪を軽く流す。店によって中身はまるで違いますから、他店の一覧を借りてきても意味がありません。
あわせて、いつから始めたかも思い出せる範囲で書いてください。前の代から続いているものと、自分が数年前に始めたものとでは、やめるときの重さがまるで違います。
この一覧が、以降のすべての判断のもとになります。ここが曖昧なままだと、あとの議論はすべて印象で進んでしまいます。
一つずつ、時間を測る
次に、それぞれ何分かかっているかを測ります。ここを飛ばすと、「まあ数分だから」で終わってしまいます。
1回ではなく、3回ぶん測ってください。相手や日によって差が出るものほど、枠を壊す原因になります。平均より、ばらつきのほうが問題になるからです。
実際に測ってみると、意外なものが上位に来ます。ほんの数分だと思っていたものが、声をかけて姿勢を変えていただく時間まで含めると、その倍かかっていた、ということはよくあります。動作そのものより、その前後にかかる時間のほうが長い場合があるのです。
そして、1日の合計も出してください。1人あたり6分でも、1日10人なら1時間です。その1時間が、休憩から出ているのか、後ろのお客様の待ち時間から出ているのか、自分の帰宅時間から出ているのか。合計の数字を見ると、その問いから逃げられなくなります。
掲げ方に気をつけるものを、分けておく
一覧の中には、やること自体より、それをどう掲げるかに注意が要るものがあります。
体をもむ行為は、その代表です。あん摩・マッサージ・指圧を業として行う場合の資格については、あはき法という別の法律の話になります。理容の一連の流れの中で行う場合にどう扱われるかは、行為の内容や地域の運用によって見方が分かれる可能性があるため、この記事では断定しません。資格の考え方そのものはあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の資格が必要な施術メニューの線引きで整理しています。
判断に迷うのであれば、所轄の保健所に確認してください。このとき、抽象的に聞くのではなく、実際にやっている内容を具体的に説明したうえで聞くのが確実です。「マッサージをしてよいか」ではなく「施術の最後に、肩に手を当てて何分ほどこうしている」と伝えると、答えも具体的に返ってきます。
そして、看板やホームページに掲げる言葉は、行為そのものとは別に考えてください。やっていることが同じでも、書き方によって受け取られ方が変わります。掲げる言葉を決めるときも、同じ窓口で確認しておくと安心です。
効果を語らないことも、あわせて決めておいてください。疲れが取れる、血行が良くなるといった説明は、根拠を示せません。表現の範囲は美容サロンの効果表現とコンプライアンスで整理しています。
耳のまわりは、範囲を先に決める
耳に関わるものは、範囲を決めておかないと、その場でずるずると広がっていきます。「ついでに奥もお願い」と言われて、断る理由が用意できていないからです。
外から見える範囲を整えるのと、それより奥に入るのとは、まったく別のことです。奥はこちらから見えません。見えないところに器具を入れれば、傷つけてしまっても気づけません。気づけないということは、その場で謝ることも、手当てすることもできないということです。
範囲を決めたら、それを言葉にしておいてください。「見える範囲を整えるところまでとさせていただいています」と言えれば、頼まれたときに角を立てずに断れます。
そして、決めた範囲は全員で揃えてください。人によって奥まで入る人がいる状態が、いちばん危ない形です。一度でも奥までやってもらえた方は、次もそれを期待します。断る側になった人が困ることになります。
血に触れる可能性があるものは、器具の扱いも変わってきます。考え方は刃と血に触れうる器具の衛生で扱っています。
3つのどれかに割り振る
一覧と時間が揃ったら、一つずつ振り分けていきます。選べるのは3つです。
1つめは、続けて料金に入れる。この場合、いまの一式の料金が本当にその時間を含んでいるかを確認してください。含めているつもりで、実際には含めていない、という状態はよくあります。
2つめは、有料の追加メニューにする。時間が読めて、頼む方がある程度限られているものは、こちらが向いています。料金表に載れば、こちらから案内することもできます。案内できるということは、売上として計画できるということでもあります。
3つめは、やめる。時間が読めない、人によって差が出る、続ける理由が「昔からだから」しかない。この3つが揃っているなら、やめる候補です。
迷ったときの基準を1つ挙げるとすれば、「新しく入った人に教えられるかどうか」です。教えられないものは、店の技術ではなく、個人の癖になっています。癖は引き継げませんから、その人が抜けた日に静かに消えます。
やめるにしても、急にやめない
やめると決めたものでも、翌日から消すのは避けてください。長く通われている方ほど、それを目当てにされています。何も言わずになくなれば、店が変わってしまったと受け取られます。
まず、期間を決めてください。今月いっぱいは続ける、その間に一人ずつ伝える、という形にします。
伝え方は、張り紙より口頭のほうが伝わります。「来月から、こちらは追加のメニューとしてお受けする形になります」で足ります。長い説明は要りません。
そして、理由を短く添えてください。時間をしっかり取ってお受けするため、という言い方が現実にも近く、角も立ちません。人手が足りないから、と言ってしまうと、店の都合という印象だけが残ります。
なお、常連の方にだけ続けるという例外は作らないでください。店内は思っている以上に見られています。隣の椅子で何が行われているかは、鏡越しに全部見えています。
メニュー表に、含む・含まないを書く
決めたことは、紙に反映してください。書いていないものは、しばらくすると決めていないのと同じ状態に戻ります。
まず、一式の中身を並べます。「カット・シャンプー・顔そり・仕上げ」といった形で、何が入っているのかが読んで分かるようにしてください。
含まないものも書いておきます。書いていないと、以前の記憶と食い違ったときに、その場で説明することになります。忙しい最中に、料金の説明を口頭でするのは、お互いに気持ちのよいものではありません。
追加メニューについては、時間と料金を並べて書いてください。時間が書いてあると、頼む側も判断できます。「10分・◯◯円」と分かれば、今日は時間がないからやめておこう、という選び方ができます。
新しいお客様には、最初から出さない
どうしてもやめきれないものがある場合、この方法があります。
これまで受けてきた方には続け、新しく来られた方には最初から出さない。期待が生まれていないところから、少しずつ整えていく形です。
数年かければ、自然に入れ替わります。急な変更で摩擦を起こすより、結果として早く落ち着くこともあります。
ただし、店の中で二重の基準を抱えることになります。誰にどこまで出しているかを記録しておかないと、担当が替わった日に崩れます。「前の人はやってくれたのに」という一言は、この崩れ方から生まれます。
スタッフによる差をなくす
複数人で回している場合、ここがもっとも揺れます。
まず、いま誰が何をやっているかを聞き取ってください。このとき、責める形にしないことが大切です。「勝手なことをするな」という話にしてしまうと、正直な答えが出てきません。一覧を埋めるための作業として進めてください。
差が出ていたら、揃える方向を決めます。多いほうに揃えれば時間が増え、少ないほうに揃えれば一部のお客様が変化に気づきます。どちらを取るかは、先に測った時間の数字を見て決めてください。感覚で決めると、声の大きい人の意見に寄ります。
そして、揃えたものを書いた紙を置いてください。口で伝えただけでは、忙しい日に元へ戻ります。新しく入った人には、この紙を最初に渡します。そうすれば、習慣ではなく手順として引き継がれます。
体に触れるものは、確認を増やす
肩や首に触れるものを続けると決めたなら、そのぶん聞くことが増えます。
聞くのは、痛むところがないか、その日の体調はどうかの2点です。とくに、高齢の方や、通院されている方には必ず確認してください。
強さについても、こちらで決めないでください。始める前に一度、途中でもう一度、確認の言葉を入れます。日本では「痛い」と言い出しにくい方が多く、我慢されたまま終わることがあります。
申し出があった部分は避け、避けたこと自体も記録に残してください。次に担当する人が同じ場所に触れてしまわないようにするためです。
なお、体の不調について尋ねられても、原因を推測して伝えないでください。こちらの領分を超えます。心配なようでしたら医療機関へ、とお伝えするところまでです。
事故が起きたときを想定しておく
無料で行っているものでも、何かあれば店の責任として扱われます。ここは誤解の多いところです。
まず、加入している保険がどこまでを対象にしているかを確認してください。施術のどの範囲が含まれるかは、契約によって違います。考え方はサロン向け施術者賠償責任保険 完全ガイドで整理しています。
次に、記録を残す形を決めてください。何をしたか、どこまで触れたかが残っていないと、あとから確認しようがありません。
そして、訴えがあったときに誰がどう答えるのかも決めておいてください。その場で判断すると、答える人によって言い方が変わります。最初の一言が食い違うと、話がこじれます。
無料だから軽い、という考え方は通りません。むしろ、料金表にないものほど記録が残っていない傾向があり、いざというときに何も示せないという状態になりがちです。
時間が読めないと、枠が壊れる
ここが、この整理をする最大の理由です。
一式にかかる時間が、担当する人によって10分違うのであれば、予約の枠は長いほうに合わせるしかありません。合わせなければ、押します。
そして押した状態は、刃物を扱う仕事ではもっとも避けたい状況です。急いでいるときにこそ、事故は起きます。
さらに、押しは後ろのお客様に伝わります。待たされた理由が、料金表に載っていないサービスだとしたら、説明のしようもありません。良かれと思って続けてきたものが、別のお客様の不満に変わっているとしたら、それは設計の問題です。
枠と単価の考え方はカット単価を上げるか、回転を上げるかで扱っています。
続けると決めたものは、質を上げる
削る話ばかりになりましたが、逆の判断もあります。
残すと決めたものは、他店との差になります。であれば、時間を削って形だけ残すのではなく、きちんと時間を取ってください。中途半端に短くしたものは、差にも満足にもなりません。
そして、料金に反映してください。「一式に含む」と書いたうえで、その一式の料金を見直すという形になります。額を変えるなら、伝える時期も先に決めておきます。次に来られたときに初めて知る、という形にはしないでください。
残すと決めたものこそ、手順を書いてください。差になるものが個人の癖のままだと、その人が抜けた時点で店から消えます。書いてあれば、少なくとも引き継げます。
高齢のお客様が中心の店の場合
長く続いている理容室ほど、この整理は重くなります。
30年通われている方にとって、一式の中身は「その店そのもの」です。中身を変えることは、関係を変えることに近くなります。ここを軽く見ると、思わぬ形で離れられます。
ですから、急がないでください。この場合は、新しく来られた方から整えていくほうが現実的です。
同時に、いま来られている方が5年後も同じ頻度で通えるとはかぎりません。一式の中身を整えることは、次の客層に合う形をいまのうちに作っておく作業でもあります。どちらか一方だけを見ていると、判断を誤ります。
一方で、体に触れるものは、年齢が上がるほど確認が要ります。続けると決めた場合ほど、聞くことを増やしてください。
記録に何を残すか
決めたあとも、記録は必要です。残すのは次の3つです。
- その方に何を出しているか
- 避けた部位
- 断ったことがあるか
とくに、例外として続けているものは必ず書いてください。書いていないと、担当が替わったときに「なぜ出てこなかったのか」が誰にも分からなくなります。
| 判断 | 向いているもの | 決めること |
|---|---|---|
| 料金に入れて続ける | 時間が読めて、店の差になるもの | 一式の中身として書く。手順も書く |
| 有料の追加にする | 頼む方が限られ、時間が読めるもの | 時間と料金を並べて出す |
| やめる | 時間が読めず、人によって差が出るもの | 期間を決めて口頭で伝える |
今日やる一つ
料金表に載っていないのに実際にやっていることを、思いつくまま紙に書き出してください。5つ以上出てきたなら、そのうちどれか1つの時間を、次の3人ぶん測るところから始めます。書き出して測る。この2つが済むまでは、続けるかやめるかを考えないほうが、かえって早く決まります。
よくある質問
昔からやっているサービスを、やめてもよいのですか
やめる前に、時間を測って一覧にしてください。判断はそのあとです。やめると決めた場合も、期間を決めて口頭で伝え、その月いっぱいは続ける形にしてください。翌日から消してしまうと、長く通われている方ほど驚かれます。
肩をもむのは、資格が要るのですか
あん摩・マッサージ・指圧を業として行う場合の資格は、あはき法という別の法律で定められています。理容の流れの中で行う場合にどう扱われるかは、行為の内容や地域の運用によって見方が分かれる可能性があります。実際にやっている内容を具体的に説明したうえで、所轄の保健所に確認してください。
掲げる言葉は、何に気をつけますか
行為そのものと、看板やホームページに書く言葉は分けて考えてください。やっていることが同じでも、書き方で受け取られ方が変わります。あわせて、疲れが取れる、血行が良くなるといった効果の説明は根拠を示せないため書かないでください。
耳のケアはどこまでやってよいですか
範囲を先に決めてください。外から見える範囲を整えるのと、見えない奥に器具を入れるのは別のことです。奥は状態が見えないため、傷つけたときに気づけません。決めた範囲は、店の全員で揃えてください。1人でも奥まで入る人がいると、断る側が困ります。
無料のままでは、いけませんか
無料でもかまいません。ただし無料であっても時間は使いますし、何かあれば店の責任として扱われます。時間を測って枠に入れること、記録を残すことは、料金をいただく場合とまったく同じように必要です。
有料にすると、頼まれなくなりませんか
頼む方は減ります。その代わり、頼まれた回数と時間が読めるようになります。減った回数ぶんの時間が空くことも含めて、数字で比べてください。回数が減っても、枠が安定するほうが店として得になる場合があります。
スタッフによって、やることが違います
まず、いま誰が何をやっているかを聞き取って一覧にしてください。責める形ではなく、埋める作業として進めます。揃える方向は、多いほうに揃えれば時間が増え、少ないほうに揃えれば一部のお客様が変化に気づきます。測った数字を見て決めてください。
常連の方にだけ続けてもよいですか
例外は見えます。店内は思っている以上に見られています。続けるのであれば、新しく来られた方には最初から出さないという分け方のほうが崩れません。誰に何を出しているかは、必ず記録に残してください。
事故が起きたら、無料なので責任は軽くなりますか
軽くなりません。加入している保険がどこまでを対象にしているかを確認し、何をどこまで行ったかを記録に残す形を先に作ってください。料金表にないものほど記録が残っておらず、いざというときに何も示せないという状態になりがちです。
何から手をつければよいですか
書き出すことからです。料金表に載っていないのに実際にやっていることを並べ、それぞれの時間を3回ぶん測ります。この2つが揃うまでは、続けるかやめるかを判断しないでください。判断が印象で進んでしまいます。

