近くの会社と組む|社員向けの優待を、通る形で持っていく
公開: 2026年8月26日
Summary
近隣企業の福利厚生として優待を出すときの進め方を整理します。店での優待と出張を分けること、窓口の見つけ方、1枚に収める資料の中身、割引の幅と期限の決め方、支払いを会社がまとめる場合の注意、3か月後の見直しまでを扱います。
向かいのビルに、100人ほどが働く会社があります。朝も夕方も、店の前をたくさんの人が通っていきます。それなのに、来店にはまるでつながっていません。近いということは、それだけでは理由にならないのだと、何年か続けてよく分かりました。
社員の方に向けて、優待を出せないだろうか。そう考えて総務に電話をかけたところ、「資料をいただければ検討します」と言われました。受話器を置いてから、さて何を書けばよいのかと手が止まりました。
企業と組むという話は、個人のお客様に声をかけるのとは仕組みが違います。相手は決裁する立場にないことが多く、担当の方が社内で通す必要があります。つまり、こちらの提案がどれだけ良くても、その方が社内で説明しにくい形であれば、そこで止まります。通しやすい形で持っていけるかどうか。それが結果を分けます。
形は2つある。混ぜない
まず、どちらの話をしようとしているのかをはっきりさせてください。
1つは、店での優待です。社員証を見せていただければ割引や特典を出す形で、来ていただくのはこちらの店です。
もう1つは、出張です。こちらが会社へ出向いて施術します。
この2つは、必要な準備も、決めるべきことも、まったく違います。両方を一緒に提案すると、相手は何を検討すればよいのか分からなくなります。まとめて出したほうが親切に見えますが、実際には判断を止めてしまいます。
なお、出張には業種と地域による制約があります。考え方はサロンの出張・訪問施術の扱いで扱っています。この記事は、店での優待を中心に置きます。
誰に話を持っていくか
窓口を間違えると、そもそも届きません。
多くの場合、総務や人事が担当します。福利厚生をまとめている部署です。
小さな会社であれば、社長か経理の方が兼ねています。規模によって変わりますので、まずは「福利厚生のご担当」を尋ねるところから始めてください。
そして、受付で長く説明しないでください。受付の方は判断する立場にありませんし、説明を聞く役目でもありません。「福利厚生のご案内で、資料をお渡ししたいのですが」まで伝えて、担当の方につないでいただく形にします。ここで力を使い切ってしまうと、肝心の相手に届く前に息切れします。
資料は1枚にする
分厚いものは読まれません。ここは割り切ってください。
書くのは次の5つです。
- 何を出すか
- 対象は誰か
- どうやって使うか
- いつからいつまでか
- 連絡先
条件は、その場で読んで分かる形にしてください。「初回20パーセント引き、2回目以降10パーセント引き」のように、数字で書きます。「お得な条件でご提供します」では、担当の方が社内で説明できません。
そして、この紙は社内で回覧されることを前提にしてください。担当の方が上司に見せる紙になります。きれいに作り込むことより、要点が上のほうにあることのほうが大事です。上司は、最初の数行しか読まないかもしれません。
値引きの幅を、先に決める
ここを曖昧にしたまま話を進めないでください。
決めるのは、割引の率と、対象にするメニューです。すべてを対象にすると、高いメニューほど引く額が大きくなります。数字の上では同じ率でも、実際に減る利益はまったく違います。
そして、その割引で利益が残るかを計算してください。人数が増えれば元が取れる、とはかぎりません。忙しくなっただけで、手元に残るお金は減っていた、ということが普通に起こります。
割引の代わりに、別のものを出すという方法もあります。所要時間の短いメニューを作る、優先して予約できる時間帯を用意する。値段を下げずに価値を作る方向です。忙しい方にとっては、割引より「すぐ入れる」ほうがありがたい場合もあります。
なお、一度出した条件は下げにくくなります。ですから、最初から続けられる幅にしてください。迷うのであれば、狭いほうから始めて、あとで広げる形が安全です。広げるのは歓迎されますが、狭めるのは必ず不満を生みます。
期限を、必ず入れる
これが、いちばん大事な守りです。
「当面の間」としないでください。1年なら1年と書き、更新するかどうかを毎年決める形にしてください。
期限があれば、合わなかったときに自然に終われます。期限がないと、やめる話を自分から切り出すことになります。切り出しにくいまま、合わない条件を何年も続けている店は少なくありません。
そして、更新のときに条件を見直せます。人数が来ていないなら幅を狭める、来すぎて枠が回らないなら時間帯を絞る。見直す機会が制度として入っているだけで、運用がずっと楽になります。
使い方を、店の側でも決めておく
条件だけ決めて、運用を決めないまま始めてしまう店が多くあります。困るのは、決めていなかったところです。
まず、確認の方法を決めてください。社員証を見せていただくのか、口頭で足りるのか。厳しくしすぎると使いにくくなり、結局使われません。
そして、予約のときに申告していただく形にしてください。会計のときに言われると、計算をやり直すことになります。レジの前で待たせながら電卓を叩くのは、お互いに気まずいものです。
家族も対象にするかどうかも決めておいてください。範囲が曖昧だと、その場で判断することになります。そして、その場の判断は、次からの前例になります。
スタッフがいる場合は、これらを紙にしてください。人によって扱いが変わると、社内で話題になります。「あの人のときは通してもらえた」という話は、必ず伝わります。
支払いを誰がするかで、話が変わる
ここを取り違えると、あとで困ります。
社員の方がその都度自分で払う形なら、通常の会計と同じです。こちらの手続きは何も増えません。
一方、会社がまとめて払う形にすると、請求書を出すことになります。月末に締めて、翌月に入金される流れです。
この形は、入金までに時間がかかります。施術は今月行っているのに、お金が入るのは来月以降です。資金繰りに影響しますので、件数が少ないうちは避けるのが無難です。
そして、支払いが遅れたときの扱いも決めておいてください。考え方はサロンで代金が支払われない場合で扱っています。
請求書を出すなら、書式を先に作る
その場で作ろうとすると、必ず何かが抜けます。
必要になるのは、宛名、期間、内訳、金額、支払い期限、振込先です。
そして、消費税やインボイスの扱いによって、先方の処理が変わることがあります。自分が登録しているかどうかで、相手の求める書式も変わります。判断はインボイス制度、個人サロンオーナーは登録すべきかを見たうえで、迷う場合は専門家に確認してください。
なお、請求書を出す形にすると、経理の作業が毎月増えます。その手間も、条件を決めるときに数えてください。割引の幅だけを見て決めると、あとから「思ったより割に合わない」となります。
既存のお客様への影響を見る
見落とされやすい、しかし大事な点です。
提携先の割引が、いま通ってくださっている方の支払いより安くなることがあります。それを知られたときに、こちらは説明できるでしょうか。
説明できないのであれば、幅を見直してください。「まとめて来ていただくから」という理由は、実際に人数が来ていないかぎり成り立ちません。そして、たいていは来ていません。
そして、優待の内容を店頭に大きく掲示しないでください。これは隠すという話ではなく、届くべき相手に届けばよいものだからです。関係のない方の目に入る場所に出す必要はありません。
なお、長く通ってくださっている方にも別の形で報いる方法を、あわせて考えてください。新しい人ほど安く、長く通う人ほど高い。この構造を放っておくと、いずれ足元から崩れます。
混む時間帯に集中したら
条件だけ決めて始めると、これが起こります。
会社勤めの方は、平日の夕方と土曜に集中します。もしそこがもともと埋まっているのなら、提携によって増えるのは待ち時間だけということになります。割引した分だけ損をして、既存のお客様も入りにくくなる。誰も得をしません。
ですから、対象の時間帯を絞る方法があります。「平日の17時まで」とすれば、もともと空いている枠が埋まります。空いている時間を埋めるための割引であれば、値引きの意味もはっきりします。
そして、その条件は最初から資料に書いてください。あとから絞ると、条件を下げたと受け取られます。
業種によって、向き不向きがある
すべての店に合うわけではありません。ここを見誤ると、労力だけがかかります。
短時間で終わり、頻度が高いものは向きます。理容やヘッドスパ、まつげのリタッチなど、勤務の合間や帰りに寄れるものです。「近い」ということが、そのまま選ぶ理由になります。
一方、長時間かかるものや、事前の相談が要るものは、勤め先の近くという理由だけでは選ばれません。休日にゆっくり行きたい、という発想のほうが自然だからです。
自分の店のメニューが、どちらに近いかを先に見てください。合わない業態で無理に組んでも、資料を作った手間だけが残ります。
断られたときの受け止め方
正直なところ、多くは断られます。そこは織り込んでおいてください。
そして理由の大半は、こちらの提案の中身ではありません。すでに別の福利厚生の仕組みが入っている、担当の方が忙しい、時期が悪い。こうした事情のほうがはるかに多いのです。
ですから、断られても関係を切らないでください。「またご縁がありましたら」と伝えて、1年後にもう一度出すという方法があります。担当が替わっていれば、答えも変わることがあります。
そして、断られた理由が聞けるようなら聞いてください。次の会社に持っていく資料が良くなります。理由が「担当が替わったばかりで」ということであれば、内容の問題ではなく時期の問題ですから、変えるべきは資料ではなく訪ねる時期です。
続いているかを、数字で見る
始めたあとこそ、確認が要ります。始めて終わりにすると、続いているのかどうかも分からなくなります。
数えるのは3つです。その提携から何人来たか、その方たちがリピートしているか、通常の客単価と比べてどうか。
3か月経って1人も来ていないのであれば、条件の問題ではなく、届き方の問題です。社内で案内されていない可能性が高いと考えてください。
そして、担当の方に一度連絡してみてください。「社内では、どのようにご案内いただいていますか」。掲示板に紙を貼って終わっていた、ということはよくあります。責める話ではありません。担当の方も本業を持っています。
案内の紙を、こちらから追加でお渡しするという方法もあります。担当の方の手間を減らすほど、社内で回りやすくなります。相手の仕事を増やさない形にできるかどうかが、続くかどうかの分かれ目です。
終わらせ方も、決めておく
続かない提携もあります。それ自体は失敗ではありません。
期限を入れてあれば、更新しないという形で自然に終われます。連絡は、期限の1か月前までにしてください。
そして、すでに来ていただいている社員の方への扱いを決めてください。会社同士の話が終わったからといって、その方との関係まで終わるわけではありません。急に条件が変わると、困るのはその方です。
移行の期間を置く方法があります。「来月末までは同じ条件で承ります」と伝えれば、角は立ちません。そしてその期間に、通常の料金でも続けて来ていただけるかどうかが見えてきます。
近隣との関係の一部として見る
単発の営業として扱わないでください。
同じ地域で長く続ける以上、提携が終わっても関係は残ります。通りですれ違うこともあれば、別の話で顔を合わせることもあります。地域の中での立ち位置はサロンと近隣・地域で扱っています。
そして、複数の会社と組む場合は、条件をそろえてください。会社によって幅が違うと、社員同士の会話で必ず分かります。同じビルに入っている会社どうしであれば、なおさらです。
小さく始める
最初から大きく組もうとしないでください。
1社、期間は半年。この規模で試せば、運用の抜けが見つかります。確認のしかた、申告のタイミング、家族の扱い。実際に動かしてみないと分からないことばかりです。
見つかった抜けを直してから、次の会社に持っていってください。同じ資料が、2社目からはそのまま使えます。
そして、うまくいった1社があれば、それが実績になります。「近隣の会社さんとも同じ形でお取引しています」と言えるかどうかで、話の通り方がまったく変わります。福利厚生の担当者にとって、前例があることは大きな安心材料です。
なお、社名を出す場合は、必ず先方の了解を取ってください。黙って使うと、それだけで信用を失います。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 形 | 店での優待か、出張か。混ぜて提案しない |
| 窓口 | 総務・人事。小さい会社なら社長か経理 |
| 資料 | 1枚。何を・誰に・どう使う・いつまで・連絡先 |
| 条件 | 割引率と対象メニュー。利益が残るかを計算する |
| 期限 | 必ず入れる(1年など)。更新時に見直す |
| 運用 | 確認方法・予約時の申告・家族の扱い |
| 支払い | 社員が個人で払うか、会社がまとめるか |
| 見直し | 3か月で人数・リピート・客単価を数える |
今日やる一つ
近くの会社を3社書き出して、それぞれ何人くらい働いているかを調べてください。人数が分かると、割引の幅を計算できるようになります。10人の会社と300人の会社では、出せる条件がまるで違います。数字が出るまでは、条件を決めないでください。
よくある質問
どこに話を持っていけばよいですか
総務や人事など、福利厚生をまとめている部署です。小さな会社では社長か経理の方が兼ねています。受付では長く説明せず、「福利厚生のご案内で資料をお渡ししたい」と伝えて、担当の方につないでいただいてください。
資料には何を書きますか
何を出すか、対象は誰か、どう使うか、いつからいつまでか、連絡先。この5つを1枚に収めてください。社内で回覧され、担当の方が上司に見せる紙になりますので、作り込みより要点が上にあることが大事です。
割引の幅はどう決めますか
割引率と対象メニューを決め、その条件で利益が残るかを計算してください。人数が増えれば元が取れるとはかぎらず、忙しくなっただけで手元に残るお金は減っていた、ということが起こります。値引きの代わりに短時間メニューや優先枠を用意する方法もあります。
期限は入れるべきですか
必ず入れてください。「当面の間」にすると、やめる話を自分から切り出すことになります。1年と決めておけば、合わなかったときに自然に終われますし、更新のたびに条件も見直せます。
会社がまとめて払う形は
請求書を出すことになり、入金までに時間がかかります。施術は今月なのに入金は来月以降ですから、資金繰りに影響します。件数が少ないうちは避けるのが無難です。支払いが遅れたときの扱いも先に決めておいてください。
請求書には何が必要ですか
宛名、期間、内訳、金額、支払い期限、振込先です。消費税やインボイスの扱いで先方の処理が変わることがありますので、自分の登録状況を確認したうえで、迷う場合は専門家に聞いてください。毎月の経理の手間も、条件を決めるときに数えてください。
社員証の確認はどこまでしますか
厳しくしすぎると使いにくくなり、結局使われなくなります。確認の方法を決めたうえで、予約のときに申告していただく形にしてください。会計のときに言われると、計算をやり直すことになります。
家族も対象にしますか
決めておいてください。範囲が曖昧だと、その場で判断することになり、その判断が次からの前例になります。スタッフがいる場合は紙にしてください。人によって扱いが変わると、社内で話題になります。
既存のお客様より安くなってしまいます
その差を説明できるかを考えてください。説明できないなら、幅を見直します。優待の内容を店頭に大きく掲示せず、届くべき相手に届けばよいものとして扱ってください。長く通う方ほど高くなる構造は、いずれ足元から崩れます。
混む時間帯に集中しませんか
会社勤めの方は平日夕方と土曜に集中します。もともと埋まっている時間なら、増えるのは待ち時間だけです。「平日の17時まで」のように対象の時間帯を絞り、その条件を最初から資料に書いてください。あとから絞ると条件を下げたと受け取られます。
どんな店に向きますか
短時間で終わり、頻度が高いものが向きます。勤務の合間や帰りに寄れるかどうかが分かれ目です。長時間かかるものや事前の相談が要るものは、休日にゆっくり行きたいと思われますので、勤め先の近くという理由だけでは選ばれません。
断られたらどうしますか
多くは断られます。理由の大半は、すでに別の仕組みが入っている、担当が忙しい、時期が悪いといったことで、提案の中身ではありません。関係を切らず、1年後にもう一度出す方法があります。担当が替わっていれば答えも変わります。
始めた後、何を見ますか
その提携から何人来たか、リピートしているか、通常の客単価と比べてどうか。3か月で1人も来ていないなら、条件ではなく届き方の問題です。担当の方に案内の方法を聞いてください。掲示板に貼って終わっていることがあります。
終わらせるときは
期限を入れてあれば、更新しないという形で終われます。連絡は期限の1か月前までに。すでに来ていただいている方には移行の期間を置いてください。その期間に、通常の料金でも続けて来ていただけるかが見えてきます。
複数の会社と組んでもよいですか
かまいませんが、条件はそろえてください。会社によって幅が違うと、社員同士の会話で必ず分かります。まず1社を半年で試し、運用の抜けを直してから広げてください。2社目からは同じ資料が使えます。



