実際の経費より多く引ける特例|面貸しや業務委託で働くなら確かめる
公開: 2026年8月25日
Summary
面貸しや業務委託で働く美容師向けに、実際にかかった経費が少なくても一定額までを経費にできる特例を整理します。対象を分ける三つの言葉、自分の店を持つ人は対象外であること、実際の経費が多い人には出番がないこと、上限、給与がある場合の調整、届出が要らず申告書に書くこと、引かれた分が戻ること、保険料への影響までを扱います。
確定申告の時期に、レシートの束を前にして手が止まりました。
集めてはいます。シザーの研ぎ代、スタイリング剤、雑誌の定期購読、交通費。ただ、並べてみると思ったより少ないのです。
面貸しで働いていると、大きな支出がありません。家賃も光熱費も、席を借りている側の負担ではないからです。材料の多くも、店のものを使わせてもらっています。
売上から引けるものが、ほとんどない。
だから、税金が思ったより重くなります。売上がそのまま所得に近くなるからです。
こういう働き方をしている人のために、別の考え方が用意されています。
実際より多く引ける仕組みがあります
経費は、実際にかかった額を集めて引くのが基本です。
ところが、ある条件に当てはまる人については、実際にかかった額が少なくても、一定の額までを経費として引いてよい、という特例があります。
レシートを積み上げなくても、その額までは引ける、ということです。
これは節税の裏技ではありません。制度として用意されているものです。ただ、名前が働き方の実態と結びつきにくいため、該当しうる人にも知られていません。
三つの言葉で決まります
対象になるかどうかは、次の三つで判断されます。
- 特定の者に対して
- 継続的に
- 人的役務を提供している
順に見ていきます。
一つ目の「特定の者」は、相手が決まっているという意味です。不特定多数のお客様を相手にしているのではなく、決まった相手に対して働いている状態を指します。
二つ目の「継続的に」は、単発ではないという意味です。
三つ目の「人的役務の提供」は、物を売るのではなく、自分の技術や労力を提供しているという意味です。美容の仕事は、ここには当てはまります。
引っかかるのは、たいてい一つ目です。
自分の店を持っている人は、まず対象外です
先に、はっきり書いておきます。
自分の店を構えて、不特定多数のお客様を迎えている場合は、この特例の対象になりません。
制度の説明でも、自分の店や事務所を持って不特定多数を相手にする事業には適用されない、とされています。
ですから、この記事を読んでいるのがサロンのオーナーで、お客様から直接代金をいただいているなら、ここで終わりです。実際にかかった経費を集めて引く、というやり方を続けてください。
経費にできるものの範囲は美容師・ネイリストが確定申告で経費にできるもの一覧|施術材料からユニフォームまでにまとめてあります。
読み進める価値があるのは、次のような人です。
該当しうるのは、こういう働き方です
相手が決まっている働き方をしている場合です。
- 面貸しで、決まった一店舗から報酬を受け取っている
- 業務委託で、特定の店に入って施術している
- 特定の施設や事業者から、継続して仕事を受けている
いずれも、代金をくれる相手がお客様ではなく、店や事業者である点が共通しています。
そして、店を持っているオーナーでも、そちらとは別に他店のヘルプや講師の仕事を継続して受けているなら、その部分について考える余地はあります。
ただし、自分の店の売上がある時点で判断は難しくなります。ここは自己判断せず、次に書く方法で確かめてください。
実際の経費が多い人には、関係ありません
もう一つ、はっきりさせておきます。
この特例は、実際にかかった経費が少ない人のためのものです。
実際の経費のほうが大きいなら、そちらを引いたほうが有利に決まっています。両方を足せるわけではありません。
つまり、次のような人には出番がありません。
- 材料をすべて自分で買っている
- 高額な機材を自分で持ち込んでいる
- 講習や移動に大きな費用をかけている
自分がどちらかは、去年のレシートを集計すれば分かります。集計しないまま「たぶん少ない」で判断しないでください。
引ける額には上限があります
この特例で引ける額には、上限が決められています。
そして、その額は改正で動いてきました。この記事には金額を書きません。読む時期によって、正しい数字が変わるからです。
書けるのは、次のことです。上限があること。そして、実際の経費がその上限を超えているなら、実際の額を引くほうが有利になること。
金額を知りたい場合は、税務署か税理士に確認してください。あるいは、申告書を作る画面でその年の額が案内されます。
給与がある場合は、調整が入ります
パートや正社員としての給与も受け取っている場合、話が変わります。
給与には、給与のための控除が別に用意されています。両方をそのまま満額使えるわけではなく、調整されます。
ですから、次のような人は計算が複雑になります。
- 週の何日かは雇われて働き、残りを面貸しで働いている
- 前職を辞めた年の途中から、業務委託に切り替えた
この場合は、自分で判断しようとせず、給与の源泉徴収票と、業務委託の支払調書や明細を持って相談してください。
届出は要りません。申告書に書きます
ここは、他の特例と違うところです。
事前の届出は要りません。確定申告のときに、申告書に必要な事項を書いて計算します。
つまり、去年のことについても、今年の申告で使える可能性があります。
逆に言えば、書き忘れれば使われません。誰も教えてくれない、ということです。
申告書を作る画面には、この特例のための欄が用意されています。存在を知っていれば見つかります。知らなければ、素通りします。
報酬から引かれている分がある場合
面貸しや業務委託で報酬を受け取っていると、支払われる前に一定額が引かれていることがあります。
明細を見ると、契約した金額より振り込まれた額が少ない、という形です。
これは、税金として先に納められている分です。つまり、すでに納めた税金がある状態で年を越しています。
ここに、この特例が効いてきます。
経費として引ける額が増えれば、その年の所得は下がります。所得が下がれば、本来納めるべき税額も下がります。すでに納めた分のほうが多ければ、その差は戻ってきます。
つまり、書き忘れると、戻るはずだったお金が戻りません。
明細や支払調書は、必ず取っておいてください。いくら引かれていたかが分からないと、精算のしようがありません。
国民健康保険料にも響きます
もう一つ、見落とされやすい影響があります。
所得が下がると、税金だけでなく、翌年の国民健康保険料も変わります。保険料は前の年の所得をもとに計算されるからです。
面貸しで働き始めたばかりの人が、二年目に保険料の通知を見て驚く、というのはよくある話です。
この特例で所得が下がれば、その通知の額も変わってきます。
税金の減り方だけを見て「たいした額ではない」と判断すると、この部分を数え落とします。保険料まで含めて考えてください。
働き方が変わったときの手続き全体は面貸し・フリーランス美容師が開業時にやるべき税務・社保手続き完全ガイド(開業届・インボイス・確定申告・国保切替)にまとめてあります。
青色申告をしている場合
青色申告の控除とは、別の話です。
青色申告の控除は、帳簿の付け方によって受けられるものです。この特例は、経費の計算のしかたに関するものです。
ですから、どちらも関係しうるのですが、組み合わせによって扱いが変わる部分があります。
面貸しで働いている人は、そもそも青色申告にするかどうかで迷うことが多いはずです。判断の材料は開業したばかりで売上がまだ少ないサロンオーナーも確定申告は必要か|赤字申告のメリットに整理があります。
いずれにしても、両方を持ち出したうえで相談するのが確実です。
該当するか迷ったら、どう聞くか
制度の名前を言えば、税務署では通じます。ただ、名前を覚えていなくても大丈夫です。
伝えるのは、次のことです。
- 面貸しや業務委託で働いていること
- 報酬をくれる相手が、お客様ではなく店や事業者であること
- その相手が何軒あるか
- 継続しているか、単発か
- 自分の店を持っているかどうか
この五つで判断できます。とくに三つ目と五つ目が結論を左右します。
該当するかどうかは、状況によって判断が分かれるところです。「使えると聞いたので使いました」では通りませんので、必ず確認してください。
席を貸している側から見ると
サロンのオーナーとして席を貸している場合、この話は自分のものではありません。
ただ、借りている相手にとっては大きい話です。
とくに、独立したばかりで売上が小さい時期には、手取りに響きます。知らないまま多く納めている人は、少なくないはずです。
契約や条件の話をするときに、税のことまで踏み込む必要はありません。ただ、「そういう特例があるらしいので、税務署で聞いてみてください」と一言添えるだけで、相手にとっては意味があります。
面貸しの条件そのものの整理は面貸し利用時の業務委託契約書で確認すべき条項(利用料・時間帯・キャンセル規定・管理美容師の所在)にまとめてあります。
記録は、やはり必要です
特例を使う場合でも、記録をやめてよいわけではありません。
理由は二つあります。
一つは、実際の経費のほうが大きいかどうかを判断するためです。集計しなければ比べられません。
もう一つは、来年以降、働き方が変わるかもしれないからです。自分の店を持てば、この特例は使えなくなります。そのときに記帳の習慣がないと、一から始めることになります。
日々の記録のしかたはサロンの経費管理を月末30分で回す|記帳の習慣と家事按分の考え方にまとめてあります。
働き方が変わったら、見直す
この特例は、働き方に紐づいています。
面貸しから自分の店へ移れば、対象から外れます。逆に、店を閉めて面貸しに戻れば、対象になりうる立場に変わります。
複数の店から仕事を受けるようになった場合も、判断が変わることがあります。相手が増えるほど、「特定の者」から遠ざかるためです。
一度確認したから毎年同じ、とは限りません。働き方が変わった年には、もう一度確かめてください。
今日やる一つ
去年の売上が、誰から入ってきたかを書き出してください。
お客様から直接なのか、店や事業者からなのか。相手は何軒あるか。
その一枚で、この記事が自分に関係あるかどうかが決まります。書き出すのに、十分もかかりません。
よくある質問
どういう仕組みですか
条件に当てはまる人については、実際にかかった経費が少なくても、一定の額までを経費として引いてよい、という特例です。レシートを積み上げなくても、その額までは引けます。
誰が対象になりますか
特定の者に対して、継続的に、人的役務を提供している人です。面貸しで決まった一店舗から報酬を受け取っている場合や、業務委託で特定の店に入っている場合が当てはまりえます。
自分の店を持っていても使えますか
自分の店を構えて不特定多数のお客様を迎えている場合は、対象になりません。制度の説明でも、そうした事業には適用されないとされています。
面貸し先が複数あると、どうなりますか
相手が増えるほど「特定の者」から遠ざかるため、判断が変わることがあります。何軒から受け取っているかは、結論を左右する情報です。
実際の経費と、両方を引けますか
引けません。どちらか有利なほうです。実際の経費のほうが大きいなら、そちらを引いたほうが有利です。
いくらまで引けますか
上限がありますが、改正で動いてきたため、この記事には金額を書きません。税務署か税理士に確認するか、申告書を作る画面での案内を見てください。
給与も受け取っている場合はどうなりますか
給与には別の控除があるため、両方をそのまま満額使えるわけではなく、調整されます。源泉徴収票と、業務委託の明細を持って相談してください。
届出は必要ですか
事前の届出は要りません。確定申告のときに、申告書に書いて計算します。逆に言えば、書き忘れれば使われません。
去年の分にも使えますか
事前の届出が要らない仕組みですので、その年の申告で書けるかどうかという話になります。すでに済ませた年について直せるかは、状況によりますので税務署に相談してください。
報酬から引かれている分は、どうなりますか
すでに税金として納められている分です。経費として引ける額が増えれば所得が下がり、本来納めるべき額も下がります。すでに納めた分のほうが多ければ、その差は戻ります。明細や支払調書は必ず取っておいてください。
国民健康保険料にも影響しますか
します。保険料は前の年の所得をもとに計算されるためです。税金の減り方だけを見て「たいした額ではない」と判断すると、この部分を数え落とします。
消費税の判定にも関係しますか
しません。消費税を納める側になるかどうかは売上の額で判定されるため、経費の計算のしかたとは別の話です。混同しないでください。
青色申告の控除とは別ですか
別です。青色申告の控除は帳簿の付け方によるもので、この特例は経費の計算のしかたに関するものです。組み合わせによって扱いが変わる部分があるため、両方を持ち出して相談してください。
特例を使うなら、記録は要りませんか
要ります。実際の経費のほうが大きいかどうかを判断するために集計が必要ですし、働き方が変われば使えなくなるためです。
席を貸している側にも関係しますか
自分のものではありませんが、借りている相手にとっては手取りに響きます。「そういう特例があるらしいので税務署で聞いてみてください」と一言添えるだけで意味があります。
毎年、同じように使えますか
働き方に紐づいた特例ですので、面貸しから自分の店へ移れば対象から外れます。働き方が変わった年には、もう一度確かめてください。
使えると聞いたので、そのまま書いてよいですか
該当するかどうかは状況によって判断が分かれます。自己判断せず、相手が何軒か、自分の店を持っているかを伝えて確認してください。



