空き店舗に移るときの自治体の補助|続けている店にも枠があります
公開: 2026年8月26日
Summary
手狭になって移転を考えている個人サロン向けに、空いている店舗を埋めることを目的にした自治体の補助を整理します。創業向けの助成とは目的が違うこと、対象になりやすい経費、区域と業種と滞納の三つの関門、工事を始める前に申請すること、窓口と聞き方、後払いであること、受け取ったあとに続く条件までを扱います。
駅前の道を歩いていて、シャッターが下りたままの店に気づきました。
前は喫茶店でした。閉まって、もう一年以上になります。広さも悪くありません。いまの店より少し広くて、駐車場も近くにあります。
いまの物件は手狭になってきました。セット面をもう一つ増やしたいのに、どう置いても通路がふさがります。
移るなら、こういう場所かもしれない。
そう思ったあとで、頭に浮かぶのは工事の金額です。空いている店を借りても、そのままでは営業できません。シャンプー台を入れて、配管を通して、内装をやり直す。それだけでまとまった額になります。
ここで、多くの人が諦めます。
その前に、確かめてほしいことがあります。空いている店に移ることに対して、自治体が補助を出している場合があるからです。
開業のときだけの話ではありません
補助というと、開業のときに調べて終わりにしている人が少なくありません。
たしかに、創業を対象にした助成は多くあります。自治体ごとの創業向けの枠については東京都創業助成金など自治体別・創業助成金の探し方と対象経費にまとめてあります。
ただ、それとは別に、空いている店舗を埋めることを目的にした補助があります。
こちらは、開業する人だけのものとは限りません。すでに営業している店が移ってくる場合も、対象にしている自治体があります。
目的が違うからです。創業向けの助成は、新しい事業者を増やすためのものです。空き店舗の補助は、シャッターが並ぶ状態をなくすためのものです。
埋めてくれるなら、新しい店でも移ってきた店でもかまわない。そういう考え方の枠が存在します。
何にお金が出るのか
自治体によって違いますが、対象になりやすいものには傾向があります。
- 店舗の改装にかかる工事費
- 借りるときの家賃、あるいはその一部
- 開店を知らせるための広告や印刷物
- 設備や備品
- 場合によっては、水道光熱費のような維持にかかる費用
このうち、金額として大きいのは改装費と家賃です。サロンは水回りの工事が要るぶん、内装の負担が重い業種です。ここに補助が付くかどうかで、移るかどうかの計算が変わります。
改装をどこまでやるかという判断そのものはサロンの改修とリニューアルの判断|どこまで手を入れるかで整理しています。
場所の条件が付いていることがあります
ただし、どこでもよいわけではありません。
多くの制度は、対象になる区域を決めています。商店街の中、中心市街地、特定の通り沿い。そういう指定があることが普通です。
区域から一本外れた通りでは、同じ物件でも対象外になります。
ですから、物件を探す段階で「この住所は対象区域に入っているか」を確かめる価値があります。数十メートルの差で結論が変わることがあるからです。
そして、空いている期間の条件が付く場合もあります。しばらく使われていない状態であることが前提になっている、という形です。
業種が対象かどうかを、先に見ます
区域の次に確かめるのが、業種です。
制度によっては、対象になる業種を並べていることがあります。小売や飲食を想定して作られていて、サービス業がどう扱われるかが自治体ごとに違う、ということが起こります。
美容業が入っているかどうかは、そのまま結論を左右します。
逆に、除外されている業種を並べている形もあります。この場合、書かれていなければ対象です。
どちらの書き方かは資料を見れば分かりますが、判断に迷うところですので、窓口で「美容室は対象になりますか」と直接聞くのが早いはずです。
そして、住まいと兼ねる形は対象外になることが多い点も、あわせて覚えておいてください。空いている店舗を埋めるための制度なので、住居の一部を使う形は目的から外れると見られます。
税の滞納があると、使えません
見落とされやすい要件があります。
多くの制度が、税を滞納していないことを条件にしています。証明書の提出を求められることも普通です。
分割で納めている途中や、猶予を受けている状態がどう扱われるかは、制度によって違います。ここは自己判断せず、窓口で状況を伝えて確かめてください。
そして、証明書は取るのに時間がかかります。申請の期限が近づいてから動くと、書類が揃わずに間に合わない、ということが起こります。
申請には、ほかにも見積書、図面、物件の契約に関する書類などが要ります。どれも用意に時間がかかるものばかりです。窓口で聞く段階で、必要な書類の一覧をもらっておいてください。
いちばん大事なのは、順番です
これを間違えると、どれだけ条件に合っていても受けられません。
補助は、原則として工事を始める前に申請します。
契約して、工事を始めて、あとから「そういえば補助があるらしい」と気づいても、もう遅い、という制度が多くあります。
理由は、その補助がなければ実現しなかった支出を支援する、という考え方だからです。すでに始まっているものは、支援しなくても実現したと見なされます。
ですから、物件を見つけた時点で、まだ何も契約しないうちに窓口へ聞いてください。見積もりを取るより前でかまいません。
聞く先は、市区町村の商工の窓口です
どこに聞けばよいか分からない、という声をよく聞きます。
自治体の中で、商工や産業を担当している課があります。名前は自治体によって違いますが、代表番号にかけて「空き店舗への出店に使える補助があるか知りたい」と言えばつないでもらえます。
商工会議所や商工会でも把握しています。地域の制度をまとめて知っているという点では、そちらのほうが早い場合もあります。
制度融資と自治体の関わり方については信用保証協会の制度融資・自治体の創業助成金とは?サロン開業で使える組み合わせの考え方も参考になります。窓口が同じ課であることも珍しくありません。
制度名を覚えていく必要はありません
窓口で制度の名前を言おうとしなくて大丈夫です。
名称は自治体ごとに違いますし、同じ自治体でも年度によって変わります。覚えていった名前が今年は無い、ということも起きます。
伝えるのは、次のことです。
- いま営業している店があること
- 空いている店舗に移りたいと考えていること
- その住所と、おおよその工事の内容
- まだ契約も工事もしていないこと
これだけで、当てはまるものがあれば教えてもらえます。無ければ、無いと分かります。どちらにしても、電話一本で済む話です。
年度で変わります
制度は、年度ごとに予算が組まれます。
つまり、去年あったものが今年は無いことも、その逆もあります。予算に達した時点で受付が終わる形も多くあります。
去年調べて無かったからといって、今年も無いとは限りません。逆に、去年の記事を見て動いても、今年は要件が変わっているかもしれません。
ここは、そのつど聞くしかない部分です。この記事に具体的な金額や割合を書かないのも、同じ理由です。
後払いです
採択されても、すぐにお金が入るわけではありません。
多くは、先に自分で全額を支払い、あとから報告して、それから振り込まれる形です。
つまり、工事の代金は自分で用意する必要があります。補助が決まったからといって、手元の資金が要らなくなるわけではありません。
移転の時期は、いちばん資金が細くなる時期でもあります。旧店舗の原状回復、新店舗の保証金、工事代金、休業期間の売上の落ち込み。これらが同時に来ます。
必要な資金の考え方は開業後の運転資金はいくら必要か?サロンが軌道に乗るまでの生活費・固定費の考え方が参考になります。
条件が後から効いてきます
受け取ったあとに続く条件があることも、知っておいてください。
多いのは、一定の期間その場所で営業を続けること、という条件です。途中でやめたり移ったりすると、返すことになる場合があります。
地元の業者に工事を頼むことを条件にしている自治体もあります。安いところに頼みたくても、対象外になってしまうことがあるわけです。
報告の義務が続く場合もあります。
ですから、金額だけを見て飛びつかないでください。数年先まで、その場所で続ける見込みがあるかどうかを先に考えることになります。
移らない場合でも、使える枠があります
空き店舗の補助は、移転が前提です。
ただ、いまの場所のまま設備を入れ替えたい、看板を変えたい、段差をなくしたい、という場合にも、別の枠が用意されていることがあります。
自治体によっては、店舗の改装や設備の更新を対象にした補助を、営業している事業者向けに持っています。省エネにつながる設備や、入りやすくするための工事を対象にしている場合もあります。
窓口は同じです。ですから、移転の相談のついでに「いまの場所で改装する場合はどうか」も一緒に聞いてしまうのが効率的です。
二店舗目として増やす場合
移転ではなく、いまの店を残したまま増やす場合はどうか。
これも、制度によって扱いが分かれます。移ってくることを想定した書き方になっていれば、増設は対象外かもしれません。空き店舗が埋まればよい、という考え方であれば、対象になります。
聞き方としては、「いまの店は残したまま、空いている店舗にもう一軒出したい」とそのまま伝えてください。言い換えずに、事実のまま言うのが確実です。
なお、受け取った補助は、事業の収入として扱われます。工事費に充てたとしても、税の計算では別に考えることになりますので、金額が大きい場合は税理士に伝えておいてください。
物件を探す段階から考える
補助を受けられるかどうかが、物件選びに影響します。
対象区域かどうか、空いている期間の条件を満たすか、工事の内容が対象になるか。これらは物件ごとに変わります。
同じ家賃なら、補助の対象になる物件のほうが実質の負担は軽くなります。
空いている店舗の探し方は閉店サロンの居抜き物件を見つける方法(廃業予定物件情報の探し方)にまとめてあります。自治体が空き店舗の情報を持っている場合もあり、その窓口が補助の窓口と同じことも珍しくありません。
商圏の判断が先です
最後に、順番として大事なことを書いておきます。
補助が出るから移る、という決め方はしないでください。
移転の可否を決めるのは、その場所でお客様が来るかどうかです。補助は、その判断が出たあとに乗せる話であって、判断そのものを動かすものではありません。
工事費の一部が戻っても、客足が落ちれば取り返せません。逆に、補助が無くても伸びる場所なら、移る価値があります。
順番を守れば、補助はただの追い風になります。
今日やる一つ
気になっている物件があるなら、その住所を控えてください。
そして、市区町村の商工の窓口に電話して、その住所が対象区域に入っているかを聞いてください。
まだ何も決めていない段階でかまいません。むしろ、決める前に聞くことに意味があります。
よくある質問
開業のときにしか使えないのではありませんか
創業を対象にした助成とは別に、空いている店舗を埋めることを目的にした補助があります。こちらは、すでに営業している店が移ってくる場合も対象にしている自治体があります。目的が違うためです。
何に対してお金が出ますか
改装の工事費や家賃が中心で、広告や設備、維持にかかる費用を含む場合もあります。サロンは水回りの工事が要るぶん内装の負担が重いので、ここに付くかどうかで計算が変わります。
どこの物件でもよいのですか
多くの制度は対象になる区域を決めています。商店街の中、中心市街地、特定の通り沿いなどです。一本外れた通りでは対象外になることがありますので、物件ごとに確認してください。
美容室は対象になりますか
制度によって、対象業種を並べている場合と、除外する業種を並べている場合があります。どちらの書き方かで判断が変わりますので、窓口で直接聞くのが早いはずです。なお、住まいと兼ねる形は対象外になることが多くあります。
税金を分割で納めている途中ですが、使えますか
多くの制度が、税を滞納していないことを条件にしています。分割で納めている途中や猶予を受けている状態の扱いは制度によって違いますので、自己判断せず窓口で状況を伝えてください。証明書の提出を求められることも普通です。
いつ申請すればよいですか
原則として、工事を始める前です。契約して工事を始めてから気づいても遅い制度が多くあります。物件を見つけた時点で、見積もりを取るより前に窓口へ聞いてください。
どこに聞けばよいですか
市区町村で商工や産業を担当している課です。代表番号にかけて、空き店舗への出店に使える補助があるか知りたいと伝えれば、つないでもらえます。商工会議所や商工会でも把握しています。
制度の名前を調べてから行くべきですか
必要ありません。名称は自治体ごとに違い、年度によっても変わります。いま営業していること、移りたい物件の住所、工事の内容、まだ契約していないことを伝えれば十分です。
去年調べたら、ありませんでした
制度は年度ごとに予算が組まれるため、去年無くても今年はある、ということが起こります。逆もあります。予算に達した時点で受付が終わる形も多いので、そのつど聞いてください。
採択されれば、工事代金を立て替えなくてよいですか
多くは後払いです。先に自分で全額を支払い、報告してから振り込まれます。移転の時期は原状回復や保証金も重なるため、いちばん資金が細くなります。
受け取ったあとに、何か条件がありますか
一定の期間その場所で営業を続けること、という条件が多く見られます。途中でやめると返すことになる場合があります。地元の業者に工事を頼むことが条件になっていることもあります。
移らずに、いまの場所を直す場合はどうですか
自治体によっては、営業している事業者向けに店舗の改装や設備の更新を対象にした枠を持っています。窓口は同じですので、移転の相談のついでに一緒に聞いてしまうのが効率的です。
いまの店を残したまま、もう一軒出す場合も対象ですか
制度によって分かれます。移ってくることを想定した書き方なら対象外かもしれませんし、空き店舗が埋まればよいという考え方なら対象になります。言い換えず、事実のまま窓口へ伝えてください。
受け取った補助に、税金はかかりますか
事業の収入として扱われます。工事費に充てたとしても、税の計算では別に考えることになります。金額が大きい場合は、決まった段階で税理士に伝えておいてください。
補助が出るなら、移ったほうが得ですか
移転の可否を決めるのは、その場所でお客様が来るかどうかです。工事費の一部が戻っても、客足が落ちれば取り返せません。補助は判断のあとに乗せるもので、判断そのものを動かすものではありません。
家賃の補助は、ずっと続きますか
期間が区切られていることがほとんどです。何年目まで、あるいは何か月分まで、という形です。補助が切れたあとの家賃で成り立つかどうかを、先に確かめてください。
複数の補助を同時に使えますか
同じ支払いに二つを重ねることは、原則としてできません。ただし、対象が違うものを組み合わせられる場合はあります。考えているものを全部並べて、窓口で聞いてください。

