小規模企業共済とは|個人事業主が自分で作る退職金の制度
公開: 2026年8月5日最終更新: 2026年8月6日
Summary
制度の仕組みを説明します。運営主体と対象の要件、月1,000円から70,000円までの掛金、必要経費ではなく所得控除という扱い、受け取り方による課税区分の違い、20年未満の任意解約による元本割れ、貸付の仕組み、経営セーフティ共済との違い、加入の手続きを扱います。
個人事業主には、退職金がありません。廃業したその日から、収入が止まります。
この空白を埋めるために作られた公的な制度が、小規模企業共済です。名前は聞いたことがあっても、中身を知らないまま何年も過ぎている方は多くいます。
なお、この記事は制度の説明に徹します。加入すべきかどうかは各人の状況で変わるため、判断は税理士など専門家にご相談ください。

どういう制度か
運営しているのは、独立行政法人の中小企業基盤整備機構です。国の関与する制度で、民間の保険商品とは性質が違います。
仕組みは単純です。毎月お金を積み立て、廃業や引退のときに受け取る。個人事業主が自分で作る退職金、という位置づけになります。
対象は、常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の個人事業主と会社役員です。美容業は「サービス業」にあたるため、5人以下が目安と考えてください。
つまり、ひとりで営業している方や数人の店であれば、多くが対象に入ります。逆に、規模が大きくなると対象から外れる制度でもあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 運営 | 中小企業基盤整備機構(独立行政法人) |
| 対象 | 個人事業主・会社役員(業種ごとの人数要件あり) |
| 掛金 | 月1,000円〜70,000円(500円単位) |
| 受け取り | 廃業・引退・65歳以上など |
掛金の扱い
制度の特徴として、よく挙げられるのがここです。ただし、正しく理解しておく必要があります。
掛金は、その年の所得から差し引けます。所得控除という扱いなので、所得税と住民税の計算対象が減ることになります。
ここで注意が必要なのは、これが必要経費ではないという点です。事業の経費として帳簿に入れるのではなく、確定申告のときに所得から控除する形になります。この違いは、記帳のしかたに関わります。
そして、控除の効果は所得によって変わります。所得が高いほど税率が高いため、同じ掛金でも減る税額は大きくなる。逆に、所得が低い年には効果が小さくなります。
具体的な金額は各人の状況で異なるため、試算は税理士にご確認ください。数字を見ないと、判断のしようがありません。
掛金は変えられる
始めるときに気になるのが、続けられるかどうかです。ここは柔軟になっています。
月1,000円から始められます。まず小さく始めて、余裕が出てから増やす形も取れる制度です。
増やすことも減らすことも、後からできます。売上が落ちた年に減らし、戻ったら増やす。この運用が認められている点は、季節で売上が動く業種には合っています。
そして、掛金を止める制度もあります。一定の条件のもとで、一時的に納付を止められます。ただし止めた期間は積み立てが進まないため、受け取り額に影響します。
前納すると、わずかながら割引があります。年払いにする方法も選べるので、資金の都合に合わせてください。

受け取るとき
ここが最も重要な部分です。いつ、どう受け取るかで扱いが変わります。
廃業したとき、引退したときが基本の受け取り時期になります。加えて、65歳以上で一定の掛金納付月数がある場合にも請求できます。
受け取り方は、一括と分割、その併用が選べます。一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得として扱われる。どちらも給与や事業所得より税負担が軽くなる区分です。
ただし、この扱いは条件によって変わります。任意で解約した場合は一時所得となり、扱いが異なる点に注意してください。
つまり、「いつ、どういう理由で受け取るか」で結果が変わる制度です。ここを知らずに途中でやめると、想定と違う結果になります。
なお、受け取り方を含めて、いつ辞めるかから逆算する考え方があります。整理は店を閉じるまでの逆算で扱っています。
途中でやめる場合の注意
制度を検討するうえで、最も知っておくべき点です。ここは正直に把握してください。
納付した月数が20年(240か月)未満で任意に解約すると、受け取る額が掛けた総額を下回ります。いわゆる元本割れです。
12か月未満で解約した場合は、受け取れません。掛け捨てになる、という理解でよいでしょう。
一方、廃業による受け取りは扱いが違います。この場合は納付月数が短くても、解約とは別の区分になるためです。
つまり、「続けられなくなってやめる」のと「事業をたたむ」のとでは、結果がまったく違ってきます。ここを混同したまま加入すると、想定と合わなくなります。
長く続けることを前提とした制度、という理解が要ります。数年で引き出す想定なら、向いていません。
借入の仕組み
あまり知られていない機能があります。積み立てた範囲で借りられる、というものです。
掛金の納付状況に応じて、一定の範囲で貸付を受けられます。事業の資金繰りに使えるほか、災害や傷病のときの枠も用意されています。
金利は低めに設定されていますが、無利子ではありません。そして、借りたものは返す必要があります。返済が滞れば、積み立てた分から相殺される扱いになります。
積み立てが手元の資金として完全に眠るわけではない、という点は判断材料になります。ただし、借入を前提にした運用は勧められません。
資金繰りの考え方は、開業後の運転資金はいくら必要かで整理しています。

経営セーフティ共済との違い
名前が似ているため、混同されやすい2つです。まったく別の制度です。
小規模企業共済は、自分の退職金です。掛金は所得控除で、受け取りは廃業や引退のとき。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先が倒産したときに備える制度です。掛金は必要経費(または損金)として扱われ、目的も違います。
どちらも同じ機構が運営していますが、加入の判断は別々に行うことになります。美容業の場合、取引先の倒産による連鎖という状況は起きにくいため、優先度も変わってくるでしょう。
名前が似ているというだけで一緒に勧められることがありますが、必要かどうかは別に考えてください。
加入の手続き
実際に始める場合の流れです。窓口が複数あるため、確認が要ります。
申し込みは、金融機関の本支店や商工会議所などで受け付けています。窓口によって扱いが違う場合があるため、行く前に電話で確認してください。事業を行っていることを確認できる書類が必要です。
確定申告書の控えや、開業届の控えが求められます。開業したばかりで確定申告をまだしていない場合は、開業届の控えが使えます。
掛金は、口座からの引き落としになります。指定できる金融機関には制限があるため、事前に確認してください。
なお、制度の内容は改正されることがあります。最新の要件は、中小機構の公式情報でご確認ください。
積立額をどう決めるか
上限まで掛けるのが良い、とは限りません。ここは事業の状態で決まります。
判断の起点は、売上が落ちた月でも払えるかどうかです。良い月を基準にすると、悪い月に苦しくなります。
そして、掛金は固定費として扱ってください。毎月出ていく額が増えるという意味では、家賃やリース料と同じ性質を持っています。
減額はできますが、手続きが要ります。最初から無理のない額にしておくほうが、結果として長く続きます。
判断するときの視点
加入するかどうかは、各人の状況で変わります。ここでは考えるべき軸だけを挙げます。
第一に、長く続けられるかどうかです。20年という期間を意識する必要があるため、短期で資金が必要になる見込みがあるなら向きません。
第二に、いま手元の資金が足りているかです。運転資金が薄い状態で積み立てを始めると、資金繰りが苦しくなります。
第三に、他の備えとの優先順位です。事業に関わる保険や、生活の予備資金のほうが先という判断もあります。優先順位の考え方は、サロンに必要な保険の種類と優先順位で整理しています。
いずれの判断も、数字を見ないと決められません。試算は税理士にご相談ください。
| 検討の軸 | 見るところ |
|---|---|
| 期間 | 20年続けられる見込みがあるか |
| 手元資金 | 運転資金を削らずに払えるか |
| 優先順位 | 保険や予備資金より先か |
| 所得 | 控除の効果は所得によって変わる |
VANNAでできること
VANNAでは、売上と予約の実績を確認できます。掛金を払い続けられるかを判断するには、月ごとの売上の波を把握しておく必要があります。カレンダー予約はMaxプランの機能で、来店前のメールリマインドは全プランで使えます。
一方で、共済の掛金を管理したり、税額を試算したりする機能はありません。これらは会計ソフトや税理士の領域になります。
料金はPro月額3,300円、Max月額5,500円、Max+月額11,000円で、いずれも税込です。初期費用は0円、予約や販売に対するVANNA側の手数料も0円です。現在はプレオープン期間として、2026年7月31日までの申し込みで2か月無料、以降の申し込みは1か月無料です。条件は変更される場合があるため、最新の内容はVANNA公式 料金でご確認ください。
加入しないという判断
制度を知ったうえで、加入しないと決めることも十分にあります。理由を挙げておきます。
まず、資金を動かせなくなる点です。積み立てた分は、廃業や引退まで自由には引き出せません。設備の更新や、急な出費に使えない資金になります。
次に、20年という期間です。事業を続ける見込みが立っていない段階では、この長さは重い前提になります。
そして、他に使い道がある場合です。借入の返済を先に進めたい、運転資金を厚くしたい。こちらのほうが優先される局面はあります。
加入しないと決めたなら、その分を別の形で置いてください。何も備えないという結論にはしないでください。
確定申告での扱い
払った後の手続きも、知っておいてください。ここを忘れると、控除が受けられません。
毎年、掛金の払込証明書が届きます。この書類を確定申告のときに使います。
申告書では、小規模企業共済等掛金控除の欄に記入します。事業の経費欄ではありません。ここを間違えると、正しく計算されません。
証明書は、なくさないでください。再発行はできますが、時間がかかります。書類の管理は、領収書と帳簿の保存で整理しています。
会社にした場合
途中で法人化する方もいます。そのときの扱いも知っておいてください。
法人の役員になった場合も、人数の要件を満たしていれば継続できます。個人事業をやめたからといって、自動的に終わるわけではありません。
ただし、手続きは必要です。加入している資格の区分が変わるため、機構への届出が要ります。
そして、掛金の扱いも確認してください。役員報酬から払う形になるため、経理のしかたが変わります。
法人化そのものの判断は、個人事業主と法人どちらで開業するかで整理しています。
今日やる一つ
まず、自分が対象になるかを確認してください。常時使用する従業員が5人以下(サービス業の場合)かどうかです。ここを満たしていなければ、検討自体が要りません。満たしているなら、次は中小機構の公式情報で最新の要件を確認してください。
よくある質問
どういう制度ですか
独立行政法人の中小企業基盤整備機構が運営する、個人事業主が自分で作る退職金の制度です。毎月積み立て、廃業や引退のときに受け取ります。掛金は月1,000円から70,000円まで、500円単位で選べます。
誰が対象ですか
常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の個人事業主と会社役員です。美容業はサービス業にあたるため、5人以下が目安になります。
掛金は経費になりますか
必要経費ではありません。所得控除という扱いで、確定申告のときに所得から差し引きます。事業の経費欄に入れるのではないため、記帳のしかたが変わります。
途中でやめられますか
やめられますが、納付月数が20年未満で任意に解約すると、受け取る額が掛けた総額を下回ります。12か月未満なら受け取れません。長く続けることを前提とした制度です。
掛金は変えられますか
増やすことも減らすことも、後からできます。一定の条件のもとで納付を止める制度もありますが、止めた期間は積み立てが進みません。
経営セーフティ共済とは違いますか
別の制度です。小規模企業共済は自分の退職金で掛金は所得控除、経営セーフティ共済は取引先の倒産に備えるもので掛金は必要経費です。運営する機構は同じですが、目的が違います。
借りることはできますか
掛金の納付状況に応じて、一定の範囲で貸付を受けられます。ただし無利子ではなく、返済も必要です。借入を前提にした運用は勧められません。
掛金はいくらにしますか
上限まで掛けるのが良いとは限りません。売上が落ちた月でも払えるかを起点にしてください。良い月を基準にすると、悪い月に苦しくなります。掛金は固定費として扱い、最初から無理のない額にしておくほうが長く続きます。
確定申告ではどう扱いますか
毎年届く払込証明書を使い、小規模企業共済等掛金控除の欄に記入します。事業の経費欄ではありません。証明書の再発行はできますが時間がかかるため、保管してください。
法人化したらどうなりますか
人数の要件を満たしていれば継続できます。ただし加入資格の区分が変わるため、機構への届出が必要です。掛金は役員報酬から払う形になるので、経理のしかたも変わります。
加入したほうがよいですか
各人の状況で変わるため、この記事では判断しません。20年続けられる見込みがあるか、運転資金を削らずに払えるか、他の備えより優先すべきかを見てください。試算は税理士にご相談ください。



