借入を早く返すべきか|返す前に確かめる五つのこと
公開: 2026年8月25日
Summary
手元に余裕が出た個人サロン向けに、繰り上げて返すかどうかの判断を整理します。返したあと手元にいくら残るか、枠は戻らないこと、保証人や担保が絡む場合、早く返すと戻る保証料とかかる手数料、口座に多く入れても減らないこと、返す順番、設備の予定、元本は経費にならないこと、最後の返済時期までを扱います。
通帳を見て、少し驚きました。
思っていたより残っています。今年は指名が伸びて、物販も動きました。大きな出費もありませんでした。
そこで、頭に浮かびます。
開業のときに借りたお金が、まだ残っています。毎月の返済は当たり前になっていますが、あの残高が消えたらどれだけ楽だろう、と。
まとめて返してしまおうか。
その気持ちは、よく分かります。ただ、返す前に確かめておくことがいくつかあります。返してから気づいても、戻せないからです。
返したくなるのには、理由があります
まず、その気持ちを否定するつもりはありません。
借入があると、毎月決まった額が出ていきます。売上が落ちた月でも、同じ額です。その圧迫感は、数字以上に効きます。
利息の分だけ、実際に支払う総額も増えています。早く返せば、その先の利息は払わなくて済みます。
そして何より、身軽になります。借入がある状態を「終わっていない」と感じる人は少なくありません。
ですから、返すこと自体は悪い判断ではありません。問題は、返したあとに手元がどうなるかを見ないまま決めてしまうことです。
先に確かめるのは、返す額ではありません
確かめるのは、返したあとに手元にいくら残るかです。
サロンは、売上が止まっても出ていくものが止まりません。家賃、リース料、水道光熱費、保険料。人を雇っていれば給料です。
体調を崩して二週間休んだら。近くに新しい店ができて、三か月落ち込んだら。設備が突然壊れたら。
そのときに動かせるお金が手元にあるかどうかで、選べる道の数が変わります。必要な金額の考え方は開業後の運転資金はいくら必要か?サロンが軌道に乗るまでの生活費・固定費の考え方にまとめてあります。
返済は、いつでも早めることができます。ですが、いったん返したお金は、必要になっても戻ってきません。
返しても、枠は戻りません
ここを取り違える人がいます。
借入は、カードの利用枠のようなものではありません。早く返したからといって、また同じ額をすぐ借りられるようになるわけではないのです。
もう一度借りるには、あらためて申し込み、あらためて審査を受けることになります。そのときの業績や、そのときの状況で判断されます。
つまり、いま手元にあるお金は、いまの自分にとっては確実に使えるお金です。返してしまえば、次に必要になったときには他人の判断を経なければ手に入りません。
この非対称は、思っているより大きい差です。
早く返すと、戻ってくるお金があります
一方で、早く返すことで戻るお金もあります。
信用保証協会の保証を付けて借りている場合、保証料は先にまとめて払っている形になっていることが多くあります。期間に対して前払いしているわけです。
ですから、予定より早く完済すると、まだ使っていない期間に対応する分の一部が返ってくる場合があります。
自動的に振り込まれるとは限らず、返ってくる額も経過した期間によって変わります。制度そのものの仕組みは信用保証協会の制度融資・自治体の創業助成金とは?サロン開業で使える組み合わせの考え方で確認できます。
自分の借入に保証が付いているかどうかは、契約書か返済予定表を見れば分かります。分からなければ、借りた金融機関に聞いてください。
保証人や担保が付いているなら、話が変わります
お金の損得より先に見るべきことが、一つあります。
借入に、家族や知人が保証人として名前を書いていないでしょうか。あるいは、自宅を担保に入れていないでしょうか。
その場合、返し終わることの意味は金額だけではありません。名前を書いてくれた人が、その責任から外れます。
保証人になっている人は、こちらから頼まない限り何も言いません。ですが、内心では気にしています。年が経つほど、その人の生活も変わります。
担保に入れている不動産があるなら、完済して設定を外す手続きまでが一区切りです。これも自動では終わらず、別の手続きが要ります。
数字だけを並べると「手元を薄くしてまで返す必要はない」という結論になりやすい場面でも、ここが絡むと判断が変わります。金額の比較の前に、誰が背負っているのかを確かめてください。
逆に、費用がかかる契約もあります
戻るお金がある一方で、早く返すこと自体に費用がかかる場合もあります。
契約の時期や種類によっては、期限前に返すときの手数料が定められていることがあります。
ですから、繰り上げて返すかどうかは、次の三つを並べて比べる話になります。
- これから先、払わずに済む利息
- 戻ってくる可能性のある保証料
- 早く返すことでかかる手数料
この三つは、いずれも自分では計算できません。借りた先に聞けば出してもらえます。聞くこと自体は無料です。
勝手に多く振り込まないでください
これは、実際に起きている失敗です。
毎月の引き落とし口座に多めに入れておけば、その分だけ早く減ると考える人がいます。減りません。
引き落とされるのは、決められた額だけです。多く入れても、ただ口座に残るだけです。
繰り上げて返すには、あらかじめ連絡して手続きを取る必要があります。金融機関によっては、承諾が要る場合もあります。
思い立った日に振り込めば終わり、という形にはなっていません。決めたら、まず電話をしてください。
全部返すのか、一部だけか
一括で返す以外に、一部だけ返す形もあります。
そして一部返す場合、その効果の出し方が二通りに分かれることがあります。返し終わる時期を早める形と、毎月の返済額を軽くする形です。
どちらが選べるかは契約によりますが、意味はまったく違います。
先を早めれば、支払う利息の総額は減ります。毎月を軽くすれば、総額はあまり変わらない代わりに、毎月の資金繰りが楽になります。
売上が振れやすい店なら、後者のほうが効くことがあります。総額の得だけで選ばないでください。
金利の高いものから見る
借入が複数ある場合、返す順番があります。
条件は、借り先によって違います。公的な制度で借りたものと、それ以外とでは、負担が同じとは限りません。
ですから、全部をまとめて「借金」として見るのではなく、一つずつ条件を並べてください。返済予定表を全部出して、残高と、いつまでかを書き出すだけでかまいません。
そのうえで、負担の重いものから減らすのが基本です。公的な制度で長く借りているものを先に返して、条件の重いものを残す。これは順番が逆になります。
制度で借りたものの位置づけは日本政策金融公庫 創業融資 完全ガイド(仕組み・審査基準・自己資金・創業計画書の書き方・面談対策・入金までのスケジュール)で整理しています。
設備の入れ替えが近いなら、返さない
数年以内に大きな支出の予定があるなら、順番を考えてください。
シャンプー台の寿命が近い。内装をやり直したい。二席増やしたい。こういう予定があるなら、いま手元を薄くするのは危険です。
設備の支出は、待ってくれません。壊れてからでは、選ぶ余裕もなくなります。
買った年に一度で経費にするのか、年をまたいで分けるのかという判断も絡みます。どちらになるかで、その年の手元の残り方が変わります。
返済を早めるのは、次の大きな支出のめどが立ってからでも遅くありません。
借入が無い状態が、常に有利とは限りません
意外に思われるかもしれません。
金融機関との関係は、借りて、返した実績の積み重ねで作られます。長く付き合いがあり、毎月きちんと返している事実は、次に借りるときの材料になります。
すべて返し終えて何年も取引が無くなると、その関係は薄くなります。いざ必要になったとき、また一から説明することになります。
これは、無理に借り続けるべきだという話ではありません。ただ、「借入ゼロがいちばん良い状態」とは限らない、ということです。
いつまでに返し終わる予定か
もう一つ、返済予定表を見るときに確かめてほしいことがあります。
最後の返済が、何年後になっているか。そして、そのとき自分は何歳か。
一人でやっている店では、この二つが重なります。体力が落ちる時期や、店を誰かに譲る時期、あるいは閉める時期に返済が残っていると、選べる道が狭くなるからです。
譲るにしても閉めるにしても、借入が残っていれば、その処理が先に来ます。
もし最後の返済が、自分が思っている引き際より後になっているなら、繰り上げて返す理由がそこにあります。利息の総額ではなく、返し終わる時期そのものを前に動かすための判断です。
逆に、まだ十分に手前で終わるなら、急ぐ理由は薄くなります。手元に置いておくほうが、選べることが多いからです。
返しても、税金は減りません
ここは誤解が多いところです。
毎月の返済のうち、元本の部分は経費になりません。経費になるのは利息の部分だけです。
ですから、繰り上げて大きく返しても、その年の利益は減りません。利益が減らないということは、税金も減らないということです。
手元のお金は大きく出ていったのに、税金は例年どおり来る。この組み合わせが、いちばん苦しい形です。
返す時期を決めるときは、そのあとに来る納税と保険料の支払いを必ず数えてください。年間の出入りの並べ方はサロンの資金繰り表を5行で作る|利益が出ているのに払えない理由が使えます。
家族のお金で返す場合
手元が足りないので、家族から出してもらって返す。この形は、慎重に扱ってください。
借入の相手が金融機関から家族に変わっただけ、という見方もできます。しかも家族との間には、返済の期日も条件も書面もないことが多くあります。
金額が大きい場合、贈与とみなされる可能性についても確認が必要です。家族から出してもらったお金を事業の資金としてどう位置づけるかは自己資金・融資・補助金をどう組み合わせるかでも触れています。
家族のお金を入れるなら、借りるのか、もらうのかをはっきりさせて、書面にしてください。あとで揉めるのは、たいてい曖昧にしたところです。
判断の順番
まとめると、次の順で見ていけば迷いません。
- 返したあと、手元にいくら残るか
- 数年以内に、大きな支出の予定があるか
- 借入ごとの条件を並べて、重い順になっているか
- 早く返した場合の、戻る保証料と、かかる手数料
- そのあとに来る納税と保険料
この五つを確かめてから、金融機関に連絡してください。順番を飛ばすと、返したあとに後悔します。
今日やる一つ
返済予定表を全部出して、机に並べてください。
何本あって、それぞれ残高がいくらで、いつまでか。この三つを一枚に書き出すだけで、返すべきかどうかの見当がつきます。
書き出せない状態のまま「なんとなく重い」と感じているなら、返す前にやることはそちらです。
よくある質問
早く返したほうが得ですか
払わずに済む利息は減ります。ただし手元の資金も減ります。返したあとにいくら残るかを先に確かめてください。返したお金は、必要になっても戻ってきません。
早く返すと、また借りやすくなりますか
枠が戻る仕組みではありません。もう一度借りるには、あらためて申し込み、あらためて審査を受けることになります。そのときの業績で判断されます。
保証料は戻りますか
保証を付けて借りている場合、期間に対して前払いしている形になっていることが多く、予定より早く完済すると一部が返る場合があります。額は経過した期間によって変わりますので、借りた先に確認してください。
保証人がいる場合は、優先したほうがよいですか
金額の比較とは別の理由になります。返し終われば、名前を書いてくれた人がその責任から外れます。担保を入れている場合は、完済したうえで設定を外す手続きまでが一区切りです。数字だけで決めない場面です。
早く返すのに費用はかかりますか
契約の時期や種類によっては、期限前に返すときの手数料が定められていることがあります。戻る保証料と、かかる手数料と、払わずに済む利息を並べて比べてください。
引き落とし口座に多めに入れておけば減りますか
減りません。引き落とされるのは決められた額だけです。繰り上げて返すには、あらかじめ連絡して手続きを取る必要があり、承諾が要る場合もあります。
一部だけ返すこともできますか
できる場合があります。しかも、返し終わる時期を早める形と、毎月の返済額を軽くする形とで意味が違います。売上が振れやすい店なら、後者が効くこともあります。
借入が複数あります。どれから返しますか
条件は借り先によって違います。返済予定表を全部出して、残高といつまでかを並べ、負担の重いものから減らすのが基本です。公的な制度で長く借りているものを先に返すのは、順番が逆になります。
設備の入れ替えを控えていますが、返してよいですか
数年以内に大きな支出の予定があるなら、手元を薄くするのは危険です。設備の支出は待ってくれません。返済を早めるのは、次の支出のめどが立ってからでも遅くありません。
借入ゼロがいちばん良い状態ですか
必ずしもそうとは限りません。借りて返した実績は、次に借りるときの材料になります。取引が無くなると、その関係は薄くなります。無理に借り続ける必要はありませんが、ゼロが常に有利ではありません。
何を目安に急ぐかを決めればよいですか
最後の返済が何年後で、そのとき自分が何歳かを見てください。思っている引き際より後に終わる予定なら、返し終わる時期を前に動かす理由になります。十分に手前で終わるなら、手元に置いておくほうが選べることが多くなります。
繰り上げて返すと、税金は減りますか
減りません。返済のうち経費になるのは利息の部分だけで、元本は経費になりません。手元のお金は減るのに税金は例年どおり来る、という組み合わせに注意してください。
家族に出してもらって返すのはどうですか
借入の相手が変わるだけ、という見方もできます。しかも家族との間には期日も条件も書面もないことが多く、金額が大きい場合は贈与とみなされる可能性の確認も必要です。借りるのかもらうのかを、書面にしてください。
誰に相談すればよいですか
まず借りた金融機関です。戻る額もかかる費用も、そこでしか出せません。税金への影響は税理士に聞いてください。相談すること自体に費用はかかりません。
相談すると、返済を迫られませんか
繰り上げて返せるかを聞くことと、返済に困っていることは別の話です。むしろ余裕があるという情報なので、不利にはなりません。困っている場合の相談も、早いほど選べる道が残ります。
据置の期間中でも、繰り上げて返せますか
契約によります。元本の返済が始まる前の期間が設けられている場合、その扱いも契約に書かれています。返済予定表と契約書を手元に置いて、借りた先に確認してください。

