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資金・融資・補助金

経費のあとに、もう一段の引き算がある|所得控除の取りこぼし

公開: 2026年8月25日

Summary

確定申告で経費を積み上げたあとに引ける所得控除を整理します。社会保険料、共済や年金の掛金、医療にかかった費用、家族の状況、保険料、寄付、災害や盗難の損害。どこから書類が届くか、なぜ取りこぼすのか、集める仕組みの作り方までを扱います。金額と条件は制度で変わるため書いていません。

確定申告の時期になると、レシートの束と向き合います。これは経費になるだろうか、これはどうか。1枚ずつ判断して、少しでも経費を積み上げようとします。

その努力は正しいのですが、そこで力を使い切ってしまう方が多くいます。実は、経費を積み上げたあとに、もう一段の引き算があります。所得控除です。

そして、こちらのほうが取りこぼしが起きやすいのです。理由は単純で、レシートの束のように目の前に積み上がらないからです。誰も教えてくれませんし、放っておいても誰も指摘してくれません。使わなかったぶんは、そのまま消えます。

経費のほうは確定申告で経費にできるもの一覧で扱っています。この記事では、その先にある引き算だけを扱います。なお、控除の金額、上限、対象になる条件は制度によって変わりますので、ここでは数字を書きません。何が引けるかを知り、その証明をどう集めるか。それだけを書きます。

確定申告の引き算が2段階になっていることを示した図。1段目は売上から経費を引く計算で、事業の話。書類は店の引き出しにあるレシート。2段目はそこから所得控除を引く計算で、その人自身の事情が対象。書類は家の郵便物にまぎれている。同じ支出を両方には入れられないと添えられている。
確定申告の引き算が2段階になっていることを示した図。1段目は売上から経費を引く計算で、事業の話。書類は店の引き出しにあるレシート。2段目はそこから所得控除を引く計算で、その人自身の事情が対象。書類は家の郵便物にまぎれている。同じ支出を両方には入れられないと添えられている。

引き算は、2段階になっている

まず、この構造を頭に入れてください。ここが分かると、なぜ取りこぼすのかも見えてきます。

1段目は、売上から経費を引く計算です。これは事業の話で、店で使ったお金が対象になります。レシートも領収書も、事業として集めています。

2段目は、そこから所得控除を引く計算です。こちらは事業ではなく、その人自身の事情に応じた引き算です。払った社会保険料、家族の状況、医療にかかった費用。店とは関係のないところから出てきます。

つまり、集める場所が違います。1段目のレシートは店の引き出しに入っていますが、2段目の書類は家の郵便物に混ざっています。同じ「確定申告の準備」なのに、探す場所がまったく違うのです。

そして、多くの方が1段目だけを丁寧にやって終わります。

社会保険料は、全部そろっているか

いちばん大きくなりやすいのに、抜けやすいところです。

個人事業主が払う国民健康保険料や国民年金の保険料は、所得控除の対象になる扱いがあります。金額としては、まとまった額になることが多い部分です。

ここで抜けやすいのが、次のようなものです。

  • 年の途中で会社を辞めた場合の、在職中に払った分
  • 家族の分を自分が払っている場合
  • 過去の未納分をまとめて払った年
  • 口座振替ではなく現金や納付書で払った分

とくに最後のものは、記録が手元にしか残りません。納付書の控えを捨てていると、あとから金額を確認するのに手間がかかります。

会社を辞めた年や、家族の加入状況が変わった年は、とくに確認してください。1年のうちに複数の立場をまたいでいると、書類の出どころも複数になります。

掛けている共済や年金の分

将来のために積み立てているものが、この段階で効いてきます。

小規模企業共済の掛金や、個人型の年金の掛金は、所得控除の対象になる扱いがあります。つまり、将来の備えをしながら、その年の税負担も軽くなるという構造です。

ここが、会社員との大きな違いです。会社員には退職金や厚生年金があり、それは自動的に積み上がります。個人事業主にはそれがない代わりに、自分で積み立てる仕組みに優遇が用意されている、という関係になります。

制度の中身は小規模企業共済とはで扱っています。加入するかどうかを判断するときは、税の面だけでなく、掛けたお金が事業の資金として使えなくなる点も見てください。

なお、掛金の証明書は年末に届きます。他の郵便物に紛れやすいので、届いたら1か所にまとめてください。

所得控除に関わる書類の出どころを6つに分けた図。社会保険料は年金の窓口や市区町村や前の勤め先から、共済や年金の掛金は年末の証明書、医療費は病院や薬局の領収書で家族の分を合算できる扱いがある、保険料は保険会社の控除証明書、寄付は寄付先から、災害や盗難の損害は届かず自分の記録だけが根拠。
所得控除に関わる書類の出どころを6つに分けた図。社会保険料は年金の窓口や市区町村や前の勤め先から、共済や年金の掛金は年末の証明書、医療費は病院や薬局の領収書で家族の分を合算できる扱いがある、保険料は保険会社の控除証明書、寄付は寄付先から、災害や盗難の損害は届かず自分の記録だけが根拠。

医療にかかった費用

一定の水準を超えた場合に、引ける仕組みがあります。

ここで多くの方が誤解しているのが、対象になる範囲です。自分の分だけだと思われがちですが、生計を同じくする家族の分を合わせて考える扱いがあります。

つまり、1人分では届かなくても、家族全員分を合わせると届くことがあります。子どもの通院、親の入院、歯の治療。1年ぶんを合算すると、思っていたより大きな額になることがあります。

対象になるものと、ならないものの区別もあります。通院にかかった交通費が含まれる場合もあれば、含まれないものもあります。ここは自己判断せず、確認してください。

そして、これも証明が要ります。領収書は捨てないでください。年が明けてから「あのときの分」を思い出しても、書類がなければ引けません。家族に、捨てないでほしいと伝えておいてください。

家族の状況による引き算

配偶者や扶養している家族がいる場合の仕組みがあります。

ここは、状況が変わった年に見落とします。子どもが生まれた、親を扶養に入れた、配偶者の働き方が変わった。こうした変化は、その年の申告に影響します。

そして、逆の変化もあります。扶養から外れた、就職した。この場合も、前の年と同じ内容で出してしまうと、あとから修正が必要になります。

夫婦でサロンを営んでいる場合は、また別の考え方が加わります。青色事業専従者給与とはで扱っていますので、あわせて確認してください。給与として払う形と、扶養として扱う形は、両立しない部分があります。

保険に入っているなら、証明書を探す

生命保険や地震保険に加入している場合、その保険料に応じた仕組みがあります。

こちらも、年末に証明書が届きます。そして、これも郵便物に紛れます。保険会社からの封筒は、案内やお知らせも多く届くため、大事なものだけを見分けるのが難しいのです。

見分け方は簡単で、封筒に「控除証明書」と書かれています。届いたら、他の書類と一緒の場所に入れてください。

なお、無くしても再発行してもらえることがほとんどです。申告の直前に気づいたら、慌てずに保険会社へ連絡してください。ただし、届くまでに時間がかかります。

寄付をしたなら

自治体への寄付や、一定の団体への寄付について、仕組みが設けられています。

ここで注意したいのが、会社員向けに用意されている簡易な手続きは、確定申告をする人には使えない場合があるという点です。個人事業主は確定申告をしますので、寄付の分も申告の中に含めることになります。

つまり、手続きが1本にまとまるということです。難しくなるわけではありませんが、「手続きしたつもり」で終わっていると、引けないまま終わります。

寄付をした際の証明書も、年をまたいで届くことがあります。届いた時期ではなく、寄付をした時期で判断される扱いがありますので、迷ったら確認してください。

災害や盗難に遭った年

これは、知られていない仕組みです。

災害や盗難によって資産に損害を受けた場合の引き算が用意されています。事業の設備が受けた被害とは別に、自分の生活に関わる部分の損害が対象になる場合があります。

ここは、事業の側の処理と混同しやすいところです。店の設備が壊れたのか、自宅のものが壊れたのか、自宅兼店舗のどの部分なのか。扱いが分かれます。

被災した年は、片づけと再開に追われて、申告のことまで頭が回りません。だからこそ、被害を示す記録を残しておいてください。記録がないと、この仕組みも使えません。

書類を集める仕組みを3つに整理した図。置く場所は家の郵便物のそばで店の引き出しとは分ける、入れ方は中身を見ずに入れる、見分ける言葉は「控除証明書」「納付済額」。下段に、使わなかった分は戻ってこないこと、書類が無ければ誰にもどうにもできないことが書かれている。
書類を集める仕組みを3つに整理した図。置く場所は家の郵便物のそばで店の引き出しとは分ける、入れ方は中身を見ずに入れる、見分ける言葉は「控除証明書」「納付済額」。下段に、使わなかった分は戻ってこないこと、書類が無ければ誰にもどうにもできないことが書かれている。

書類を集める仕組みを、1つ作る

ここまで見てきて分かるのは、内容の難しさではなく、書類が散らばっていることが問題だという点です。

送られてくる時期がばらばらで、送り主も違います。年金の窓口、保険会社、共済、市区町村、病院。共通しているのは、どれも家に届くという点だけです。

ですから、対策も1つで足ります。箱を1つ用意して、それらしい封筒が届いたら中身を見ずに入れる。それだけです。

見ずに入れる、というのが要点です。中身を確認しようとすると、その場で判断が必要になり、面倒になって放置します。判断は、申告の準備をする日にまとめてやればよいことです。

そして、箱は家に置いてください。店の引き出しには、事業のレシートが入っています。混ぜないほうが、あとで探しやすくなります。

年の途中で開業した年は、とくに確認する

会社を辞めて開業した年は、両方の性質が混ざります。

在職中に給与から引かれていた分と、辞めたあとに自分で払った分。どちらも関係してきます。前の勤め先から届く書類も必要になります。

そして、この年は税の計算そのものが複雑になりやすいところです。1年目の流れは開業1年目の確定申告スケジュールで扱っています。

迷うのであれば、この年だけでも専門家に見てもらう価値があります。1年目に正しい形を作っておけば、2年目からは同じことを繰り返すだけになります。

経費と混ぜない

最後に、注意点を書いておきます。

所得控除の対象になるものを、経費として計上しないでください。逆も同じです。同じ支出を両方に入れることはできません。

とくに紛らわしいのが、保険と共済です。事業のために掛けているものと、自分のために掛けているものでは、扱いが変わります。証券や契約の内容を見ないと判断できません。

判断に迷ったら、そのまま置いておいてください。無理に片方へ入れるより、専門家に聞いたほうが早く済みます。「どちらか分からないもの」という付箋を貼って、そのまま持って行けば足ります。

使わなかった分は、戻ってこない

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

引ける仕組みがあるのに使わなかった場合、税務署から「使い忘れていますよ」と連絡が来ることはありません。多く払った状態のまま、その年が終わります。

そして、あとから気づいた場合に手続きできる期間には、限りがあります。何年も前の分をまとめて直せるわけではありません。

だからこそ、書類を集める仕組みだけは作ってください。中身の判断は、専門家でもソフトでもできます。ただ、手元に書類が無ければ、誰にもどうにもできません。

赤字の年でも、申告する

所得が少ない年や赤字の年は、「どうせ税金がかからないから」と申告をやめてしまうことがあります。

ただ、申告しないことで失うものがあります。赤字を翌年以降に引き継ぐ仕組みは、申告していることが前提になっているためです。詳しくは赤字でも確定申告をしたほうがよい理由で扱っています。

そして、所得を証明する書類が必要になる場面もあります。借入の相談、保育園の手続き、住まいの契約。申告していないと、収入を示せません。

税金の話だけではない、ということです。

引けるものどこから書類が来るか見落としやすい点
社会保険料年金の窓口・市区町村・前の勤め先現金で払った分、家族の分、切り替えのあった年
共済や年金の掛金共済・運営する機関年末に届く証明書が郵便物に紛れる
医療にかかった費用病院・薬局の領収書家族の分を合算できる扱いがある
家族の状況によるもの手元の情報増えた年だけでなく、減った年も要確認
保険料保険会社の「控除証明書」案内の封筒に紛れる。再発行は時間がかかる
寄付寄付先会社員向けの簡易な手続きが使えない場合がある
災害や盗難の損害自分で残した記録事業の側と生活の側で扱いが分かれる

今日やる一つ

空き箱を1つ用意して、家の郵便物を置く場所のそばに置いてください。そして「控除証明書」「納付済額」といった文字が見えた封筒を、中身を見ずに入れてください。年末から年明けにかけて、思っているより多くの封筒が届きます。

よくある質問

経費と所得控除は、何が違いますか

経費は売上から引くもので、店で使ったお金が対象です。所得控除はそのあとに引くもので、その人自身の事情に応じたものが対象になります。集める書類の場所も違い、経費は店の引き出し、控除は家の郵便物に混ざっています。

社会保険料で抜けやすいのは

年の途中で会社を辞めた場合の在職中の分、家族の分を自分が払っている場合、過去の未納分をまとめて払った年、そして現金や納付書で払った分です。とくに最後は記録が手元にしか残りません。

共済や年金の掛金も引けますか

小規模企業共済の掛金や個人型の年金の掛金は、所得控除の対象になる扱いがあります。将来の備えをしながらその年の負担も軽くなる構造ですが、掛けたお金が事業の資金として使えなくなる点も見てから判断してください。

医療費は自分の分だけですか

生計を同じくする家族の分を合わせて考える扱いがあります。1人分では届かなくても、家族全員分を合算すると届くことがあります。対象になるものとならないものの区別がありますので、自己判断せず確認してください。

領収書を捨ててしまいました

書類がなければ引けません。医療の領収書は、年が明けてから思い出しても遅いので、家族にも捨てないでほしいと伝えておいてください。保険会社の控除証明書は、再発行してもらえることがほとんどですが、届くまでに時間がかかります。

家族の状況が変わった年は

増えた年だけでなく、減った年も確認してください。子どもが生まれた、親を扶養に入れた、配偶者の働き方が変わった。逆に、扶養から外れた、就職した。前の年と同じ内容で出すと、あとから修正が必要になります。

夫婦でサロンをやっている場合は

給与として払う形と、扶養として扱う形では考え方が変わり、両立しない部分があります。青色事業専従者給与の記事とあわせて確認してください。

寄付をした分はどうなりますか

自治体への寄付や一定の団体への寄付について仕組みが設けられています。ただし、会社員向けに用意されている簡易な手続きは、確定申告をする人には使えない場合があります。「手続きしたつもり」で終わっていると、引けないまま終わります。

災害や盗難に遭った場合は

資産に損害を受けた場合の引き算が用意されています。事業の設備が受けた被害とは別に、生活に関わる部分の損害が対象になる場合があります。記録がないと使えませんので、被害を示すものを残しておいてください。

書類が散らばって管理できません

箱を1つ用意して、それらしい封筒が届いたら中身を見ずに入れてください。見ずに入れるのが要点で、その場で判断しようとすると面倒になって放置します。箱は家に置き、店のレシートとは混ぜないでください。

年の途中で開業した年は

在職中に給与から引かれていた分と、辞めたあとに自分で払った分の両方が関係します。前の勤め先から届く書類も必要です。この年だけでも専門家に見てもらう価値があります。1年目に形を作れば、2年目からは繰り返すだけです。

経費と控除、どちらに入れるか迷います

同じ支出を両方に入れることはできません。とくに保険と共済は、事業のために掛けているものと自分のために掛けているもので扱いが変わります。迷ったら無理に入れず、「どちらか分からないもの」として専門家に持って行ってください。

使い忘れたら、あとから直せますか

手続きできる期間には限りがあり、何年も前の分をまとめて直せるわけではありません。そして、使い忘れを税務署が教えてくれることもありません。書類を集める仕組みだけは作っておいてください。

赤字の年も申告しますか

してください。赤字を翌年以降に引き継ぐ仕組みは、申告していることが前提になっています。また、借入の相談、保育園の手続き、住まいの契約など、所得を証明する書類が必要になる場面もあります。