治療で髪が抜けるときの相談を受けたら|可否ではなく、施術の中身を決めておく
公開: 2026年8月26日
Summary
「治療を始めるので、抜ける前に短くしたい」と言われたときに困らないための整理です。電話口での一次対応、抜ける前・抜けている間・生えてきたあとの3つの時期でやることの違い、頭皮に触れるときの注意、聞かないことの決め方、直前でしか決まらない予約の扱いまで扱います。
予約の電話で、「治療を始めるので、抜ける前に短くしておきたい」と言われました。長く通ってくださっている方でした。何と答えればよいのか、その場では出てきませんでした。受話器を持ったまま数秒黙ってしまい、その沈黙が相手にも伝わったはずです。
こうした相談は、事前に決めておけば落ち着いて受けられます。そして決めておく必要があるのは、受けるかどうかではありません。何をどう切るか、いつ来ていただくか、そして何を聞かないか。この3つです。
なお、施術してよいかどうかという医学的な判断は、店が行う領域ではありません。その考え方の型は妊娠中のお客様への施術で整理していて、持病や治療中の申告にもそのまま使えます。この記事では、その先にある実務だけを扱います。
相談は、3つの時期に分かれる
同じ方からの相談でも、時期によって頼まれることが変わります。ここをあらかじめ分けておくと、電話口で慌てずに済みます。
抜け始める前は、短くしておきたいという相談が中心になります。抜けているあいだは、頭皮に触れる場面と、かぶりものに合わせて整える場面が出てきます。そして生えてきたあとは、短い間隔での来店になります。
3つの時期を続けて担当するとはかぎりません。1回だけの場合もありますし、途中から任されることもあります。
ですから、どの時期の相談なのかを最初に把握してください。それだけで、当日に用意するものが決まります。
電話口で、その場で答えること
相談は、たいてい予約の電話で来ます。ここで詰まると、それだけで相手に負担をかけます。切り出すのに勇気が要る電話だからです。
まず、受けると答えてください。「承ります」で足ります。理由や事情を、その場で確認しないでください。
次に、日程の候補を2つ出します。空いている時間帯をこちらから先に示すと、人目のことを自分から切り出さずに済む場合があります。「この時間なら、ほかにお客様が少ないです」という言い方であれば、押しつけにもなりません。
そして、長さはその場で決めないでください。「当日、ご相談しながら決めましょう」と伝えます。電話で決めた長さは、当日に変わることが多いものです。
最後に、当日こちらから確認することを予告しておいてください。「触れてよい場所と、避けたい場所だけ伺います」と先に言っておけば、当日の質問が唐突になりません。何を聞かれるか分からない状態で来店するのは、それだけで気が重いものです。
抜ける前に短くしたい、と言われたら
いちばん多い相談です。ここで決めておくことがあります。
まず、目的を聞いてください。抜けたときの負担を減らしたいのか、気持ちの整理なのか、周囲への見せ方なのか。目的によって、選ぶ長さが変わってきます。
そして、どこまで短くするかを、こちらから提案しすぎないでください。「短いほうが楽ですよ」という言い方は、経験から出た親切であっても、本人の判断の幅を狭めます。決めるのは本人です。こちらは選択肢を並べる側に回ります。
一度で決めない方法もあります。今日は肩まで、次に来られたときにさらに短く、という形です。段階を踏むことで、気持ちの整理がつく方もいます。ただし、日程が読めない事情がある場合は、その日で完了させるほうが親切です。
切った髪を持ち帰りたいと言われることがあります。袋を用意しておいてください。寄付を考えている場合は条件が団体ごとに違いますので、ヘアドネーションを受けるかを先に確認しておくと、当日に困りません。
短くするときの、当日の段取り
通常のカットとは、組み方を変えてください。
まず、時間を短く組みます。長く座っていること自体が負担になる場合があります。丁寧にやろうとして時間をかけるのは、この場面では親切になりません。
鏡を見るかどうかを、先に聞いてください。途中は見たくない、という方がいます。椅子の向きを変えるだけで済む話です。
床に落ちた髪をどうするかも、決めておいてください。すぐ片づけてほしい方と、終わるまでそのままでよい方がいます。ここは希望がはっきり分かれるところですから、迷ったら始める前に聞いてください。
そして、掃除の手順は先に頭に入れておいてください。片づけながら考えていると、その時間が実際より長く感じられます。手が止まっている時間ほど、座っている側には長く感じられるものです。
頭皮に触れるときに気をつけること
抜けている時期の頭皮は、普段と状態が違うことがあります。
強くこすらないでください。爪を立てない、指の腹で触れる。これは本来どなたに対しても同じことですが、この時期はとくに徹底してください。
熱いお湯を使わないでください。温度は、いつもより短い間隔で確認しながら進めます。
痛みや違和感がないかは、施術中にも聞いてください。始める前の1回だけでは足りません。始まってから気づくこともありますし、途中で言い出せない方もいます。
そして、頭皮の状態について、こちらから見立てを言わないでください。「荒れていますね」という一言でさえ、どう受け取られるか読めません。気づいたことは記録に書き、口には出さない。この扱いにしておくのが確実です。
シャンプーをするかどうか
一律に決めないでください。本人に聞いてください。
濡らさずに済ませる形も選べるようにしておきます。そのためには、乾いたまま切る段取りを普段から持っておくことになります。当日に「どうしましょうか」と考え込むと、それが伝わります。
タオルは、押さえるように当ててください。こする動きは避けます。
そして、時間を短くしてください。台に横になる姿勢が続くこと自体が、負担になる場合があります。
かぶりものに合わせて整える依頼
持ち込まれる場合があります。ここは、できることの範囲を先に決めておいてください。
素材によっては、店で扱えないことがあります。人の髪でできているものと、そうでないものとでは、道具も熱の扱いもまったく変わります。扱えないものは、扱えないと言ってください。無理に受けて傷めてしまうほうが、はるかに困った事態になります。
自分の髪の側を整えてほしい、という依頼もあります。こちらは通常の技術で対応できる範囲です。
そして、扱えない場合に案内できる先を持っておいてください。専門に扱う店がどこにあるかを一度調べておくだけで、断り方がまったく違ってきます。断られた側にとって困るのは、断られたこと自体より、次にどこへ行けばよいか分からないことです。
なお、仕上がりについて断定しないでください。自然に見えるかどうかは、こちらが決めることではありません。
予約が、直前でしか決まらない
ここが、通常の予約ともっとも違うところです。
体調や日程の都合で、直前まで決まらないことがあります。前日や当日の連絡になる場合もあります。これは事情によるものですから、こちらの都合で変えられるものではありません。
ですから、キャンセルの扱いを先に決めておいてください。この事情で来られなくなった場合に料金を申し受けるのかどうか。決めていないと、その場の空気で判断することになり、あとから整合が取れなくなります。
直前の変更を受けられる枠を、週に1つ作っておくという方法もあります。埋まらなければ通常の予約に開放すればよいのですから、損はしません。
そして、「また連絡します」で終わった場合は、こちらから追わないでください。連絡が来ないことにも理由があります。待っている、という姿勢だけを保っておけば十分です。
人目を、どう外すか
来店をためらう理由の多くは、施術そのものではなく人目です。
時間帯で外す方法があります。開店前、閉店後、客足の少ない時間。どれか1つを提案できる形にしておいてください。
席の位置でも変わります。入口から見えない席、鏡の向き。個室がなくても、できることはあります。
ただし、目立つ形で配慮しないでください。他のお客様の前で特別な扱いをすると、その配慮自体が視線を集めます。さりげなくというのは難しいものですが、ここは意識して抑えたほうがうまくいきます。
「聞かないこと」を決めておく
聞く内容を決めることは、そのまま、聞かないことを決めることでもあります。
病名、治療の内容、これからの見通し。いずれも、施術には要りません。ですから聞かないでください。心配だから聞く、という気持ちは分かりますが、聞かれた側は答えなければならない立場に置かれます。
聞くのは次の3つで足ります。
- 頭皮に痛みがあるか
- 触れてよいか
- 避けたい場所があるか
会話の中で踏み込まない話題の考え方はサロンの会話の設計で整理しています。この場面は、そのなかでももっとも慎重にする必要があります。
なお、本人から話される場合は、聞いてください。こちらから引き出さない、というだけのことです。話したくて来られる方もいます。
ご家族から相談が来る場合
本人ではなく、家族から連絡が来ることがあります。
内容は聞いてください。ただし、本人不在のまま切る長さを決めないでください。
当日、本人に確認する場を必ず作ってください。家族の意向と本人の希望が違うことがあります。良かれと思って手配された家族と、まだ気持ちが追いついていない本人。この組み合わせは、めずらしくありません。
そして、家族の前では本人が言いにくそうにしている様子があれば、髪を洗うあいだなど、2人になる場面を作ってください。そこで一言確認できれば、当日の判断が変わります。
記録に何を残すか
書くのは事実だけです。
残すのは、触れてよい範囲、避けた場所、使ったもの、その日の希望です。これらが残っていれば、次に来られたときに同じ確認を繰り返さずに済みます。同じことを何度も聞かれるのは、それ自体が負担になります。
病名や治療の内容は書かないでください。そもそも聞いていないのですから、書きようがありません。
記録の考え方はアレルギーと既往の記録で整理しています。ここでも、聞いた事実だけを書き、こちらの見立ては書かない、という扱いになります。
再開のとき
しばらく空いてから来られることがあります。
生えてきた髪の状態については、断定しないでください。以前と違うと感じられていても、その理由をこちらから説明できるものではありません。
短い間隔での来店になる場合があります。次回の目安をお伝えしておくと、いつ来ればよいのか迷わせずに済みます。
そして、「戻りましたね」という言い方は避けてください。励ますつもりの言葉ですが、区切りをどこに置くかは、本人が決めることです。こちらが節目を宣言する立場にはありません。いつもと同じように迎えることが、いちばん自然です。
料金をどうするか
短時間で終わることが多いため、迷うところです。
まず、無料にはしないでください。気持ちとしては分かりますが、受け取らないことが、かえって次に来にくくさせます。申し訳なさが残ると、足が遠のきます。
短時間のメニューとして料金を決めておく方法があります。あらかじめ決めてあれば、その場で悩まずに済みます。
そして、その場で値引きを決めないでください。1回きりのつもりの判断が、次からの基準になってしまいます。次回、同じようにできないときに困るのは、こちらではなく相手です。
スタッフがいる場合
共有の範囲を決めておいてください。
伝えるのは、施術に必要なことだけです。避ける場所、時間帯の希望、シャンプーの有無。これで足ります。
聞いていない病名や事情を、想像で補って共有しないでください。憶測が事実として伝わっていくのが、いちばん避けたい形です。
担当を替えないほうがよい場面ですが、休みは出ます。誰が入っても同じ対応になるよう、記録の書き方をそろえておいてください。書き方が揃っていれば、担当が替わっても「また一から説明する」という状況を避けられます。
受けられると、外に書くかどうか
書けば来やすくなる一方で、書き方を誤ると、かえって近寄りにくくなります。ここは判断が分かれるところです。
書くのであれば、事実だけにしてください。「短時間のカットも承ります」「開店前の時間もご相談ください」。これで足ります。
効果や気持ちに関わる言葉は書かないでください。安心できる、前向きになれる。こうした表現は、こちらが決められることではありません。
そして、特定の状態の方に向けた見出しを立てるかどうかは、慎重に決めてください。掲げられていること自体を負担に感じる方がいます。自分がその見出しの対象なのだと思いながら店に入るのは、気持ちのよいものではありません。
書かないと決めた場合は、電話で聞かれたときに答えられる形にしておいてください。外には出さない代わりに、聞かれたら必ず受けられる状態を作っておく。これも一つの選び方です。
| 場面 | 決めておくこと |
|---|---|
| 抜ける前の相談 | 目的を聞く。長さは本人が決める。切った髪を持ち帰る用意 |
| 施術中 | 時間を短く。鏡の向き。床の髪をどうするか |
| 頭皮 | こすらない。温度を確認。見立てを言わない |
| 予約 | 直前変更の扱い。キャンセルの扱い。追わない |
| 人目 | 時間帯と席。ただし目立つ配慮はしない |
| 聞くこと | 痛み・触れてよいか・避けたい場所の3つだけ |
| 料金 | 短時間のメニューとして先に決める。無料にしない |
今日やる一つ
短時間で切るだけのメニューを、時間と料金だけ決めて紙に書いてください。名前を付けて表に出す必要はありません。相談が来たときに、その場で考えずに済む状態を作ることが目的です。電話口の数秒の沈黙が消えるだけでも、相手の負担はずいぶん軽くなります。
よくある質問
施術を受けてよいか聞かれたら
医学的な判断は、店が行う領域ではありません。答えるのは施術の内容と調整できることまでで、可否は主治医に確認していただく形になります。この型は妊娠中の方への対応と同じです。
どこまで短くすればよいですか
本人が決めることです。こちらから「短いほうが楽ですよ」と提案しすぎないでください。経験から出た親切であっても、本人の判断の幅を狭めます。目的を聞いたうえで、長さの選択肢を並べるところまでにしてください。
切った髪はどうしますか
持ち帰りたいと言われることがありますので、袋を用意しておいてください。床に落ちた髪をすぐ片づけるかどうかも希望が分かれますので、始める前に聞いてください。
頭皮に触れてよいですか
触れてよいかどうかを本人に聞いてください。触れる場合は、こすらない、爪を立てない、熱いお湯を使わないの3点を徹底します。状態についての見立ては口に出さず、記録にだけ書いてください。
かぶりものの手入れは受けられますか
素材によって扱えないことがあります。扱えないものは扱えないと伝え、専門に扱う店を案内できるようにしておいてください。断られた側にとって困るのは、断られたこと自体より、次にどこへ行けばよいか分からないことです。
直前のキャンセルはどう扱いますか
先に決めておいてください。この事情で来られなくなった場合に料金を申し受けるのかどうかを決めていないと、その場の空気で判断することになります。直前の変更を受けられる枠を週に1つ作っておく方法もあります。
人目が気になると言われたら
時間帯と席の位置で調整できます。開店前や閉店後、入口から見えない席。ただし、他のお客様の前で目立つ形の配慮をすると、その配慮自体が視線を集めます。
何を聞いてよいですか
頭皮に痛みがあるか、触れてよいか、避けたい場所があるか。この3つだけです。病名、治療の内容、見通しは施術に要りません。本人から話される場合は、聞いてください。こちらから引き出さない、というだけのことです。
家族から相談が来たら
内容は聞いてよいですが、本人不在のまま長さを決めないでください。当日、本人に確認する場を必ず作ります。家族の意向と本人の希望が違うことはめずらしくありません。言いにくそうな様子があれば、2人になる場面を作ってください。
記録には何を残しますか
触れてよい範囲、避けた場所、使ったもの、その日の希望です。病名や治療の内容は書きません。聞いていないためです。同じことを何度も聞かれるのは、それ自体が負担になります。
電話でその場で何と答えますか
「承ります」と受けたうえで、日程の候補を2つ出してください。長さはその場で決めず、当日に相談する形にします。触れてよい場所と避けたい場所だけ当日伺うと予告しておくと、質問が唐突になりません。
ホームページに書いてよいですか
書くなら事実だけにしてください。短時間のカットを承ること、開店前の時間を相談できること。安心できる、前向きになれるといった表現は書かないでください。書かないと決めた場合は、聞かれたときに答えられる形を用意しておいてください。
料金は安くするべきですか
無料にはしないでください。受け取らないことが、かえって次に来にくくさせます。申し訳なさが残ると足が遠のきます。短時間のメニューとして料金を先に決めておけば、その場で悩まずに済みます。



