被災したあとに使える制度|片づける前に、記録を残す
公開: 2026年8月25日
Summary
災害でサロンが被害を受けたあと、支援を受けるための動き方を整理します。片づける前に撮る記録、罹災の証明、並行して回る窓口、保険と共済への連絡、税や保険料の相談、設備を入れ替えるときの確認、再開後に残る手続きまでを扱います。支援の内容は災害と自治体で変わるため書いていません。
台風が過ぎた翌朝、店の前の道に水が引いた跡が残っていました。中に入ると、床が濡れ、シャンプー台の下の配管まわりに泥が入っています。営業できる状態ではありません。
その日から3日間、片づけに追われました。写真を撮る余裕もなく、濡れたものを次々に処分しました。あとから、それが取り返しのつかない判断だったと知りました。被害を示すものが、何も残っていなかったのです。
被災したあとに使える制度は、いくつも用意されています。ただ、そのほとんどが「被害があったことを示せること」を前提にしています。片づけと制度の申請は、実は同時に進めるものです。備えの側はサロンの災害への備えで扱っていますので、この記事では、起きてしまったあとの動き方だけを書きます。
なお、支援の内容、対象になる被害の程度、申請できる期間は、災害ごとにも自治体ごとにも変わります。ここでは、そうした変わるものは書きません。何を残し、どの順番で、どこへ行くか。それだけを扱います。
片づける前に、記録を残す
人の安全が確保できたら、次にやるのはこれです。掃除ではありません。
被災後の支援は、たいてい「どういう被害があったか」を確認したうえで判断されます。そして確認する側は、片づいたあとの店を見ても判断できません。証拠は、こちらが残しておくしかありません。
残すのは、次のようなものです。
- 建物の外観(浸水の跡が残っているうちに)
- 店内の全体が分かる引きの写真
- 傷んだ設備の一つひとつ
- 水に浸かった高さが分かるもの
- 日付が分かる形での記録
写真は、多すぎて困ることはありません。あとから「あれを撮っておけば」と思うことのほうが、はるかに多くあります。撮る時間は、全部で10分ほどです。その10分を惜しんだ結果が、冒頭の話でした。
罹災の証明を取る
被災した事実を公的に示す書類が、多くの手続きの入口になります。市区町村が発行するもので、被害の程度を確認したうえで出されます。
これが無いと、支援の話が進まない場面が多くあります。逆に言えば、これがあれば複数の窓口で使えます。1か所ごとに証明を取り直す必要はありません。
申請には期限が設けられることが一般的です。そして、災害の直後は窓口が混み合います。落ち着いてからでよいと考えていると、期限に近づいてから並ぶことになります。
手続きの詳細や必要なものは、自治体によって案内が出ます。まずは市区町村のお知らせを確認してください。
窓口は、いくつも並行して動く
ここが、被災後にいちばん混乱するところです。1か所で済む話ではありません。
大きく分けると、次のような相手がいます。
- 市区町村(罹災の証明、独自の見舞いや支援の制度)
- 税や保険料の窓口(負担の軽減や猶予)
- 加入している保険や共済(保険金の請求)
- 金融機関(返済の相談、災害時の融資)
- 保健所(設備が変わる場合の確認)
そして、それぞれ別々に動きます。1か所で聞いた話が、他の窓口にも伝わっているわけではありません。同じ説明を何度もすることになりますが、それが普通です。
だからこそ、状況を書いたメモを1枚作っておいてください。いつ、どういう被害があり、いま何を申請しているか。これを持って回るだけで、説明の時間が半分になります。
保険と共済は、真っ先に連絡する
加入しているものがあるなら、早い段階で連絡してください。
理由は2つあります。1つは、片づける前に現場を確認したいと言われる場合があるためです。連絡せずに片づけてしまうと、確認できるものが無くなります。
もう1つは、何が対象になるかを聞くためです。自分では対象外だと思っていたものが含まれていることも、その逆もあります。判断は、こちらでしないでください。
そして、加入している内容を正確に把握していない方は多くいます。この機会に、証券を出して確認してください。何が対象で、何が対象外か。保険の全体像は個人事業主の保険の考え方で整理しています。
なお、施術に関わる保険と、店舗や設備に関わる保険は別のものです。どちらに入っているかを確認してください。
税や保険料の負担は、相談できる
被災した年は、収入が止まる一方で、前の年の実績に基づいた請求が届きます。ここが、いちばん苦しい組み合わせです。
災害に遭った場合には、通常とは別の扱いが用意されていることがあります。税や保険料について、負担を軽くする仕組みや、納める時期を先に延ばす仕組みです。
ただし、こちらから申し出ないと始まりません。黙っていても、被災したことを役所が把握して自動的に処理してくれるわけではありません。
そして、ここでも罹災の証明が使われます。先に取っておくと、話が早く進みます。
借入があるなら、金融機関にも連絡する
返済が難しくなりそうなときは、早い段階で連絡してください。これは災害でなくても同じですが、災害の場合はとくに、相談できる幅が広がることがあります。
そして、復旧のための資金を借りる話も出てきます。ただし、ここは慎重に考えてください。借りれば返済が増えます。すでに借入がある状態なら、合計でいくらになるかを先に計算してください。
保険金がいくら入るのか、いつ入るのかが分かってから借りる額を決める。この順番が理想です。ただ、現実には工事を先に進めなければならないこともあります。その場合も、当面いくら必要かを数字にしてから相談してください。
設備を入れ替えるときの確認
被害を受けた設備を新しくする場面が出てきます。
このとき、届け出た内容と変わる部分があれば、確認が必要になることがあります。洗い場の位置、区画の作り、設備の数。同じ場所に同じものを戻すなら問題にならないことが多いのですが、この機会に変えるのであれば、先に所轄の保健所に聞いてください。
工事が終わってから「これは届け出が必要でした」となると、やり直しになります。
設備そのものの故障への対応は設備が壊れたときの対応で扱っています。災害でなくても起きることですので、あわせて決めておいてください。
記録の側の被害を見る
見落とされやすいのが、紙とデータです。
顧客の台帳、予約の記録、経理の書類。これらが失われると、支援の申請にも、再開後の営業にも響きます。売上がいくらだったかを示せないと、被害の説明もできません。
濡れた紙は、乾かせば読めることがあります。捨てる前に、写真を撮っておいてください。
そして、この機会に保管の方法を見直してください。1か所にしか無いものは、次も同じように失われます。データの守り方はサロンのデータのバックアップで扱っています。
支援の情報は、どこから来るか
制度の一覧を自分で探そうとしないでください。災害ごとに内容が変わりますし、あとから追加されることもあります。
見る先は3つで足ります。
- 市区町村のお知らせ。地域限定の支援は、ここに出ます。
- 商工会議所や商工会。事業者向けの情報が集まります。
- 加入している保険や共済の窓口。
そして、こちらから聞くときは「使える支援はありますか」と広く尋ねてください。制度名を挙げて聞くと、その制度の可否しか返ってきません。
なお、災害のあとには、支援を装った不審な勧誘が現れることがあります。向こうから来た話は、いったん保留にして、公的な窓口で確認してください。急がせる相手ほど注意が要ります。
営業を止める判断と、伝え方
再開の見通しが立たない時期が、いちばん判断に迷います。
このとき、無理に「いつ再開します」と言わないでください。言った日に開けられないと、そのあとの信用に響きます。「いまは休んでいます。分かり次第お知らせします」で十分です。
そして、連絡の手段を1つ決めてください。電話が通じない状況もあります。予約の連絡先を持っているなら、そこから一斉に伝えられます。
予約が入っている方への連絡は、早い順に行ってください。直近の方から順に、というだけの基準で足ります。
従業員がいる場合
働いている人にとっては、生活の話になります。
営業できない期間の扱いを、早めに伝えてください。分からないことは「分からない」と伝えたうえで、いつまでに決めるかを言ってください。何も言われない状態が、いちばん不安です。
そして、休業に関わる扱いには制度が関わります。自分で判断せず、労働局や社会保険労務士に確認してください。ここを誤ると、あとから修正するのが難しくなります。
なお、従業員自身も被災していることがあります。出てこられるかどうかを確認する連絡と、雇用の話は、分けてしてください。
再開したあとに、やること
営業が戻っても、手続きは残ります。
保険金の受け取り、支援の実績報告、税や保険料の猶予の期間が終わったあとの支払い。これらが、忙しくなった時期に重なります。
ですから、期限のあるものを1枚に書き出してください。何を、いつまでに、どこへ。忙しさの中で忘れると、せっかく申請したものが無駄になります。
そして、この経験を記録に残してください。何が使えて、何が使えなかったか。次に同じことが起きたときに、迷う時間が減ります。
使った制度を、記録に残す
これは、あとで効いてきます。
書くのは、いつ、どこに、何を申請し、どうなったか。そして、いくら入って、いつ入ったか。
理由は2つあります。1つは、税の申告のときに関わってくるためです。支援として受け取ったお金の扱いは、種類によって違うことがあります。専門家に相談するときに、この記録がそのまま資料になります。
もう1つは、次のためです。数年後に同じ災害が起きたとき、記憶は薄れています。1枚残っているだけで、動き出しがまったく違います。
備えの側に、戻す
最後に、これを書いておきます。
被災したあとに使える制度は、あくまで損失の一部を埋めるものです。全部が戻ることは、まずありません。
そして、いちばん大きな損失は、営業できなかった期間の売上です。ここは、制度では埋まりにくい部分になります。
ですから、落ち着いたら備えの側に戻ってください。加入している保険の中身、データの保管、当面の運転資金。この3つを見直すだけで、次のときの傷が浅くなります。施術者としての備えの全体はサロン向け施術者賠償責任保険 完全ガイドでも触れています。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 人の安全のあと | 片づける前に写真。外観・全体・設備・浸水の高さ |
| 数日以内 | 市区町村で罹災の証明。保険と共済に連絡 |
| 並行して | 税・保険料の窓口、金融機関、保健所(設備を変える場合) |
| 持ち歩くもの | 被害と申請状況を書いた1枚のメモ |
| 情報源 | 市区町村のお知らせ/商工会・商工会議所/保険の窓口 |
| 再開後 | 期限のあるものを書き出す。使った制度を記録に残す |
今日やる一つ
被災したときに写真を撮る場所を、いま決めておいてください。店の外観、店内の全体、設備、そして水の高さが分かるもの。この4つをメモに書いて、備品の棚に貼っておいてください。その日は、考えて決める余裕がありません。
よくある質問
何から手をつければよいですか
人の安全を確保したあとは、片づけではなく記録です。外観、店内の全体、傷んだ設備、水に浸かった高さ。10分ほどで撮れます。片づいたあとの店では、被害を示せません。
写真はどのくらい撮りますか
多すぎて困ることはありません。あとから「あれを撮っておけば」と思うことのほうが、はるかに多くあります。日付が分かる形にしておいてください。
罹災の証明は必要ですか
多くの手続きの入口になります。1つ取っておけば複数の窓口で使えます。申請には期限が設けられることが一般的で、災害の直後は窓口が混み合いますので、落ち着いてからと考えないでください。
どこに相談すればよいですか
市区町村、税や保険料の窓口、加入している保険や共済、金融機関、そして設備を変えるなら保健所です。それぞれ別々に動きますので、被害と申請状況を書いたメモを1枚持って回ると、説明の時間が半分になります。
保険にはいつ連絡しますか
早い段階です。片づける前に現場を確認したいと言われる場合があり、片づけてしまうと確認できるものが無くなります。何が対象になるかも、こちらで判断せず聞いてください。
税や保険料は待ってもらえますか
災害に遭った場合には、通常とは別の扱いが用意されていることがあります。ただし、こちらから申し出ないと始まりません。黙っていても自動的に処理されるわけではありませんので、罹災の証明を持って窓口へ行ってください。
復旧のためにお金を借りるべきですか
借りれば返済が増えます。すでに借入があるなら、合計でいくらになるかを先に計算してください。保険金がいくら、いつ入るかが分かってから決めるのが理想ですが、工事を先に進める場合も、当面いくら必要かを数字にしてから相談してください。
設備を入れ替えるとき、届け出は要りますか
同じ場所に同じものを戻すなら問題にならないことが多いのですが、この機会に変えるのであれば、先に所轄の保健所に聞いてください。工事が終わってから必要だったと分かると、やり直しになります。
濡れた書類は捨ててよいですか
捨てる前に写真を撮ってください。乾かせば読めることもあります。売上がいくらだったかを示せないと、被害の説明もできなくなります。
支援の情報はどこで見ますか
市区町村のお知らせ、商工会や商工会議所、加入している保険の窓口の3つで足ります。聞くときは制度名を挙げず「使える支援はありますか」と広く尋ねてください。なお、向こうから来た勧誘は、いったん保留にして公的な窓口で確認してください。
お客様には何と伝えますか
無理に「いつ再開します」と言わないでください。言った日に開けられないと信用に響きます。「いまは休んでいます。分かり次第お知らせします」で十分です。予約が入っている方には、直近の順に連絡してください。
従業員への対応は
営業できない期間の扱いを早めに伝えてください。分からないことは分からないと伝えたうえで、いつまでに決めるかを言います。休業に関わる扱いには制度が関わりますので、労働局や社会保険労務士に確認してください。
再開したあとに残ることはありますか
保険金の受け取り、支援の実績報告、猶予が終わったあとの支払い。これらが忙しい時期に重なります。何を、いつまでに、どこへ、を1枚に書き出しておいてください。
受け取った支援は記録しますか
いつ、どこに、何を申請し、どうなったか。いくら入って、いつ入ったか。税の申告に関わってきますし、数年後に同じことが起きたときの動き出しがまったく違います。

