保険金を受け取ったとき|売上に入れるものと、入れないもの
公開: 2026年8月25日
Summary
サロンが保険金を受け取ったあとの経理と税を整理します。物と体の損害は原則として課税されないこと、事業の損失を補うものは収入になること、修理費として受け取った場合、買い直したときに課税を先送りできる仕組み、賠償の保険は通り抜けるだけであること、入金までの立て替えまでを扱います。
上の階の水漏れで、天井と床がやられました。
営業は二週間止まりました。そのあいだに業者を入れて、内装を直して、機器も一台だけ買い替えました。
火災保険から、保険金が振り込まれました。
助かった、と思いました。そして、その振り込みを見ながら、次の疑問が浮かびました。
この入金は、売上に入れるのだろうか。そして、税はかかるのだろうか。
受け取った保険金は、性質で分かれます
まず、ここが全部の起点です。
保険金と一口に言っても、何に対して支払われたのかで扱いが変わります。同じ口座に同じように振り込まれても、経理も税も同じではありません。
大きく分けると、こうなります。
- 建物や設備が壊れたことに対するもの
- 体を傷めたことに対するもの
- 事業の損失を補うもの
- お客様への賠償に充てられるもの
このうち、上の二つと下の二つでは、扱いが逆になります。
保険の種類そのものは店舗と賠償の保険の基本で扱っています。この記事は、その保険から実際にお金を受け取ったあとの話です。
物と体の損害は、原則として課税されません
いちばん知っておく価値のあるところです。
火事や水漏れで建物や設備が損害を受けた。そのことに対して支払われた保険金は、原則として課税されません。
けがをしたことに対する保険金も、同じ扱いです。
なぜかというと、これは儲けではないからです。失ったものを埋めるために受け取っているだけで、手元の資産が増えたわけではありません。
ですから、この種類の保険金は、事業の売上には入れません。
記帳の上では、事業の収入とは別の枠で処理します。個人の資金を事業に入れたときと同じ扱い方をするのが一般的です。ここは会計ソフトの科目の選び方の問題になりますので、迷ったら税理士に確認してください。
事業の損失を補うものは、収入になります
一方、こちらは扱いが逆です。
営業できなかった期間の売上を補うもの。仕入れた材料が使えなくなったことに対するもの。こうした保険金は、事業の収入として計上します。
理由は、性質が売上と同じだからです。本来なら営業して得ていたはずのものを、保険が代わりに払っています。
つまり、同じ事故で受け取った保険金でも、内訳によって扱いが分かれることがあるということです。
ですから、保険会社から届く支払いの明細を、必ず取っておいてください。何に対していくら支払われたのかが、そこに書いてあります。
明細を捨ててしまうと、あとで内訳を分けられなくなります。
修理費として受け取った場合
よくある形なので、分けて書きます。
壊れたものを直すために保険金を受け取り、実際に修理をした。この場合、修理の費用は経費になります。
そして、その修理費に充てるために受け取った保険金は、その経費と対応する形になります。
つまり、出ていった分と入ってきた分が釣り合っていれば、そこで大きな差は生まれません。
ただし、修理費より多く受け取った場合や、受け取ったのに修理しなかった場合は、扱いが変わります。ここは税理士に確認してください。
設備が壊れたときの動き方はサロンの設備が壊れたときで扱っています。まず直すかどうかを決めるのが先で、保険の話はそのあとです。
買い直した場合、課税を先送りできる仕組みがあります
ここが、この記事でいちばん知られていないところです。
事業に使っていた資産が壊れて、保険金を受け取った。そして、その保険金で同じような資産を買い直した。
このとき、受け取った額が失った資産の価値を上回っていても、その分の課税を先送りできる仕組みがあります。
なぜこういう仕組みがあるかというと、買い直しただけで事業の状態は元に戻っただけだからです。そこに税がかかると、買い直せなくなってしまいます。
ただし、条件があります。
- 同じ種類の資産を買い直すこと
- 一定の期間内に買い直すこと
- 申告のときに、その旨を示す手続きをすること
そして、買い直しが翌年になる場合の扱いも用意されています。
条件も期間も細かく決まっていますので、当てはまりそうなら、必ず税理士に相談してください。自分で判断して申告すると、あとで直すことになります。
入ってくるまでの期間を、耐えられるか
資金繰りの話です。
事故が起きて、保険金が振り込まれるまでには時間がかかります。連絡して、調査があって、金額が決まって、それから振り込まれます。
一方、修理の費用は先に出ていきます。業者は待ってくれませんし、直さなければ営業も再開できません。
つまり、保険に入っていても、その期間は自分で立て替えることになります。
ですから、いざというときの手元の資金は、保険とは別に持っておいてください。保険はあとから埋めてくれるものであって、その場を回してくれるものではありません。
そして、営業を止めている間も、家賃や返済は出ていきます。ここも重なります。
なお、修理の見積もりを取る前に工事を始めてしまうと、いくらの損害だったのかを示しにくくなります。急ぐ気持ちは分かりますが、写真を撮り、見積もりを取り、保険会社に連絡する。この順番を崩さないでください。
賠償の保険は、こちらのお金ではありません
混同されやすいところです。
施術でお客様に損害を与えてしまった。そのときに賠償の保険が使われた場合、そのお金は最終的にお客様へ渡ります。
つまり、店の収入でも、店の支出でもありません。通り抜けるだけです。
ただし、保険会社が直接お客様へ支払う形と、いったん店が受け取ってから支払う形があります。後者の場合、口座には一度入ってきます。
ここを売上に入れてしまうと、数字が狂います。明細を見て、何のお金かを確かめてください。
事故が起きたときの初動は施術事故が起きた時の初期対応で扱っています。お金の話より先に、そちらです。
自分にかけた保険は、事業とは別です
分けて考えるところです。
自分が入院した、働けなくなった。そのときに受け取る保険金は、事業のものではありません。
ですから、事業の帳簿には入れません。そして、多くの場合、税もかかりません。
ただし、契約の形によって扱いが変わることがあります。とくに、満期で受け取るものや、解約して受け取るものは、性質が違います。
自分にかける保険の考え方は保険の種類と優先順位で扱っています。
記帳では、必ず分けて残す
実務の話です。
保険金が振り込まれた月の記帳では、次のことを残してください。
- いつ、いくら入ったか
- どの保険から、何に対して支払われたか
- それに対応する支出(修理費、買い替えの代金)はいくらか
- 明細の書類はどこにあるか
これを残しておかないと、年が明けたときに思い出せません。そして、思い出せないまま売上に入れてしまう、あるいは全部を無かったことにしてしまう、という事故が起きます。
月ごとの記帳の回し方はサロンの経費管理を月末30分で回すで扱っています。保険金が入った月は、いつもより丁寧に残してください。
消費税を納めている場合
もう一段あります。
消費税を納める立場になっている場合、保険金の扱いは、所得税の扱いとはまた別に考えます。
一般に、保険金は対価を得て行う取引ではないため、消費税の計算では別の扱いになります。
ただし、受け取った保険金で買い直した資産や、支払った修理費のほうは、消費税の計算に関わってきます。
つまり、入ってきたお金と出ていったお金で、扱いが分かれます。ここは判断を含みますので、納める立場になっているなら税理士に確認してください。
受け取れないこともあります
最後に、現実的な話も書いておきます。
保険金は、契約の内容に沿ってしか支払われません。そして、実態が契約と違っていた場合、支払われないことがあります。
自宅の一部で営業しているのに、住居用のままの契約になっている。届出を出していない設備がある。こうした場合です。
つまり、受け取ったあとの処理を考える前に、そもそも受け取れる契約になっているかを確かめておく必要があります。
これは、事故が起きてからでは間に合いません。何もない時期に、契約の内容と実際の営業のしかたを突き合わせてください。
| 受け取ったもの | 扱い |
|---|---|
| 建物や設備の損害に対するもの | 原則として課税されない。事業の売上には入れない |
| けがに対するもの | 同上 |
| 営業できなかった期間を補うもの | 事業の収入として計上する |
| 材料が使えなくなったことに対するもの | 同上 |
| お客様への賠償に充てられるもの | 店の収入でも支出でもない。通り抜けるだけ |
| 修理費として受け取ったもの | 実際の修理費と対応する。多く受け取った場合は要確認 |
| 買い直しに充てたもの | 条件を満たせば課税を先送りできる仕組みがある |
| 自分にかけた保険 | 事業とは別。ただし満期や解約は性質が違う |
今日やる一つ
いま入っている保険の証券を出して、対象になっている場所と設備が、実際の営業のしかたと合っているかを確かめてください。合っていなければ、受け取れるかどうかの前提が崩れています。
よくある質問
受け取った保険金は売上に入れますか
何に対して支払われたのかで変わります。建物や設備の損害、けがに対するものは事業の売上には入れません。一方、営業できなかった期間を補うものや、材料が使えなくなったことに対するものは、事業の収入として計上します。
なぜ課税されないものがあるのですか
失ったものを埋めるために受け取っているだけで、手元の資産が増えたわけではないからです。儲けではない、という整理になります。
記帳ではどう処理しますか
事業の収入とは別の枠で処理します。個人の資金を事業に入れたときと同じ扱い方をするのが一般的ですが、会計ソフトの科目の選び方の問題になりますので、迷ったら税理士に確認してください。
一つの事故で両方受け取りました
同じ事故でも、内訳によって扱いが分かれることがあります。保険会社から届く支払いの明細に、何に対していくら支払われたかが書いてありますので、必ず取っておいてください。捨てると、あとで分けられなくなります。
修理費として受け取った場合は
実際に修理をすれば、その費用は経費になります。修理費に充てるために受け取った保険金は、その経費と対応する形になりますので、釣り合っていれば大きな差は生まれません。多く受け取った場合や修理しなかった場合は、扱いが変わります。
買い直した場合はどうなりますか
事業に使っていた資産が壊れて保険金を受け取り、同じような資産を買い直した場合、受け取った額が失った資産の価値を上回っていても、その分の課税を先送りできる仕組みがあります。買い直しただけで事業は元に戻っただけだから、という考え方です。
その仕組みには条件がありますか
同じ種類の資産を買い直すこと、一定の期間内に買い直すこと、申告のときに手続きをすること。条件も期間も細かく決まっていますので、当てはまりそうなら必ず税理士に相談してください。自分で判断して申告すると、あとで直すことになります。
買い直しが翌年になりそうです
翌年になる場合の扱いも用意されています。あきらめる前に、税理士へ相談してください。
賠償の保険で受け取ったお金は
最終的にお客様へ渡るものですので、店の収入でも支出でもありません。ただし、いったん店が受け取ってから支払う形の場合、口座には一度入ってきます。売上に入れないでください。
自分の入院保険はどう扱いますか
事業のものではありませんので、事業の帳簿には入れません。多くの場合、税もかかりません。ただし、満期で受け取るものや解約して受け取るものは性質が違いますので、契約の形を確認してください。
記帳では何を残しますか
いつ・いくら入ったか、どの保険から何に対して支払われたか、それに対応する支出はいくらか、明細の書類はどこにあるか。この4点です。残さないと、年が明けたときに思い出せません。
消費税の扱いも同じですか
所得税の扱いとはまた別に考えます。一般に保険金は対価を得て行う取引ではないため、消費税の計算では別の扱いになりますが、買い直した資産や支払った修理費のほうは計算に関わってきます。納める立場になっているなら税理士に確認してください。
保険金はすぐ入りますか
連絡して、調査があって、金額が決まって、それから振り込まれます。一方、修理の費用は先に出ていきますので、その期間は自分で立て替えることになります。いざというときの手元の資金は、保険とは別に持っておいてください。
急いで修理を始めてもよいですか
見積もりを取る前に工事を始めてしまうと、いくらの損害だったのかを示しにくくなります。写真を撮り、見積もりを取り、保険会社に連絡する。この順番を崩さないでください。
営業を止めている間の支払いはどうなりますか
家賃や返済は出ていき続けます。保険金が入るまでの期間と重なりますので、そこも見込んでおいてください。
そもそも受け取れないことはありますか
あります。自宅の一部で営業しているのに住居用のままの契約になっている、届出を出していない設備がある。こうした場合、実態が契約と違うとして支払われないことがあります。事故が起きてからでは間に合いませんので、何もない時期に突き合わせてください。

