家賃の値上げを言われたとき|通知は、決定ではありません
公開: 2026年8月25日
Summary
サロンの賃料の値上げや更新を言われたときの考え方を整理します。通知が申し入れであること、上げる側にも事情が求められること、こちらから下げてほしいと言えること、契約書のどこを読むか、交渉に持って行くもの、折り合わない場合、出ていく側の費用、立ち退きを求められた場合までを扱います。
更新の三か月前に、管理会社から封書が届きました。
契約の更新についてのお知らせです。そして、そこに賃料の改定と書いてありました。
金額を見ます。月に一万円ほど上がっています。年にすれば十二万円です。
その場で、断る言葉が浮かびませんでした。この場所で八年やってきて、お客様もついています。断って出ていけと言われたら困る。だから、払うしかないのだろうと。
ところが、通知が来たからといって、その額に決まったわけではありません。
通知は、決定ではありません
まず、ここを押さえてください。
賃料を上げたいという通知は、相手からの申し入れです。申し入れであって、決定ではありません。
つまり、こちらが承諾して初めて、新しい金額になります。
そして、承諾しないまま更新の日が来ても、契約がその日で終わるわけではありません。従来の条件のまま続く形になることが一般的です。
ですから、慌てて署名しないでください。まず、内容を確かめる時間を取ってください。
なお、この記事は借りている側の考え方を整理したものです。実際の対応は契約の内容と個別の事情によりますので、金額が大きい場合や話がこじれた場合は弁護士に相談してください。
上げる側にも、理由が要ります
一方的に決められるものではない、という話です。
賃料を変えるには、それなりの事情が求められます。周りの相場が上がった、土地や建物にかかる税が上がった、当初の金額が相場に比べて低くなった。こうした事情です。
ですから、「なぜ上げるのですか」と聞いてよいのです。
そして、答えが返ってこない、あるいは「そういうものだから」という説明しかない場合は、こちらから確かめる材料を探すことになります。
聞くこと自体が失礼にあたる、と思わないでください。金額を決め直す話ですから、根拠を確かめるのは当然のことです。
こちらから、下げてほしいと言うこともできます
意外に知られていないところです。
賃料の増減を求める権利は、貸す側だけのものではありません。借りている側からも、下げてほしいと申し入れることができます。
周りの相場が下がった、近くに空きが増えた。こうした事情があれば、こちらから言えます。
つまり、上げる話が来たときにだけ動くのではなく、平時にも見直しの余地があるということです。
もっとも、言えば通るというものではありません。相手にも事情があります。ただ、言えないと思い込む必要はない、ということです。
契約書を、先に読み直してください
動く前にやることです。
見るのは、次のところです。
- 賃料の改定について、どう書かれているか
- 更新のときの手続きと、更新料の定め
- 契約の種類(期間が来たら終わる形かどうか)
- 中途で解約する場合の通知の時期と違約金
このうち三つめが、いちばん重要です。
期間が満了したら契約が終わる形になっている場合、更新を前提とした話ができません。この場合、続けるかどうかは相手の判断になります。
契約の種類が分からない場合は、契約書の表題と、更新に関する条項を見てください。判断がつかなければ、保証金・敷金・礼金の基礎知識で扱っている契約前の確認事項が、そのまま読み直しの手がかりになります。
誰と話すのかを、確かめる
進める前の実務です。
通知が管理会社から来ている場合、その担当者に決める権限があるとはかぎりません。取り次ぐだけの立場のこともあります。
ですから、「これはどなたが決めることですか」と確かめてください。取り次ぎの相手にいくら説明しても、伝わらないまま返事が来ます。
そして、話した内容は記録に残してください。いつ、誰に、何を伝えたか。電話で済ませた場合も、そのあとに要点を書いた短い書面を送っておくと、あとで食い違いません。
なお、口頭で「では据え置きで」と言われても、それだけでは形になりません。決まったことは、必ず書面にしてください。
支払いの遅れがあると、話が弱くなります
先に片づけておくところです。
これまでに、家賃が遅れた月はありませんか。引き落とせなかった、数日遅れた。こうしたことがあると、交渉の場でそこを持ち出されます。
つまり、日々の支払いが、いざというときの立場を作っているということです。
もし遅れたことがあるなら、その事情を先に説明できるようにしておいてください。隠しても、相手の記録には残っています。
そして、これから更新を控えているなら、それまでの数か月は確実に払ってください。直前の実績は、いちばん見られます。
交渉に持って行くもの
準備の話です。
感情で押しても、相手は動きません。持って行くのは、次のものです。
一つめは、近隣の相場です。同じような広さ、同じような立地の物件が、いくらで出ているか。不動産情報を見れば分かります。
二つめは、こちらの数字です。売上に対して家賃が何割を占めているか。上がった場合に、どうなるか。
三つめは、これまでの実績です。何年、遅れずに払ってきたか。原状を保って使ってきたか。
三つめは、金額の根拠にはなりません。ただ、相手にとって「代わりを探す手間」を思い出させる材料にはなります。
自分の数字はサロンの損益分岐点の計算方法で出せます。家賃が上がったときに、何人多く来てもらう必要があるのか。この数字を持っていると、話が具体的になります。
折り合わない場合
すぐに決まらないこともあります。
このとき、いくつかの道があります。
一つは、金額ではなく条件で折り合う形です。期間を長くする代わりに据え置く、あるいは上げ幅を段階に分ける。こうした形が成り立つことがあります。
もう一つは、公的な場に持ち込む形です。話し合いで決まらない場合の手続きが用意されています。
ただし、ここまで来ると時間も費用もかかります。ですから、その前に弁護士に相談してください。相談だけなら、費用をかけずにできる窓口もあります。
そして、支払いを止めないでください。争っている間も、従来の額は払い続けます。止めると、こちらの立場が悪くなります。
更新料は、どう考えるか
分けて書きます。
更新のときに更新料を求められることがあります。これは、契約に定めがあるかどうかで変わります。
定めがなければ、当然に払うものではありません。定めがあれば、その内容によります。
ですから、まず契約書を見てください。そして、書かれている場合は、金額と支払いの時期を確かめてください。
なお、更新料は前もって分かる支出です。ですから、資金繰りの表に入れておいてください。年に一度や数年に一度の支出は、忘れられがちです。
年間の見通しはサロンの資金繰り表で扱っています。
出ていくという選択と、その費用
比べるために書きます。
値上げを受け入れるか、出ていくか。この二つを並べるとき、出ていく側の費用を見誤らないでください。
かかるのは、こうしたものです。
- 新しい物件の保証金や礼金、仲介の手数料
- 内装と設備の工事
- いまの物件の原状回復
- 移転の期間、営業できないこと
- お客様が付いてこないぶんの売上
とくに最後の二つが大きくなります。近くに移っても、全員は来ません。
原状回復の考え方は原状回復義務の範囲で、移転の段取りはサロンの移転チェックリストで扱っています。
つまり、月に一万円の値上げと、移転にかかる費用を比べると、何年分かに相当することが多いのです。この計算をしてから判断してください。
立ち退きを求められた場合
更新ではなく、出ていってほしいと言われる場合です。
建て替えたい、自分で使いたい。こうした事情で申し入れられることがあります。
このときも、言われたとおりに従う必要はありません。相手にはそれなりの事情が求められますし、明け渡しにあたって金銭が支払われる形になることもあります。
金額も条件も個別の事情によりますので、この場合は早い段階で弁護士に相談してください。自分だけで返事をしないでください。
上がることを、前提に置いておく
最後に、考え方の話です。
物価も、土地や建物にかかる税も、上がる局面があります。ですから、家賃が上がる話は、いつか来るものとして考えておいてください。
そのうえで、二つ準備できます。
一つは、家賃が売上の何割かを、いま把握しておくことです。割合が高いほど、上がったときの影響が大きくなります。
もう一つは、更新の時期を手帳に入れておくことです。通知が来てから考えるのではなく、その半年前から「今回はどうするか」を考え始めてください。
そして、その時期に合わせて、近隣の相場を一度見ておいてください。知っているのと知らないのとでは、通知が来たときの落ち着きが違います。
| 場面 | 押さえるところ |
|---|---|
| 通知が来た | 申し入れであって、決定ではない。慌てて署名しない |
| 上げる理由 | 相場、税の変動など、それなりの事情が求められる。聞いてよい |
| こちらから | 下げてほしいと申し入れることもできる |
| 先に読む | 改定の条項/更新料の定め/契約の種類/中途解約の条件 |
| 持って行くもの | 近隣の相場/自店の数字(家賃比率)/これまでの実績 |
| 折り合わない | 条件で折り合う形もある。公的な場もあるが、その前に弁護士へ |
| 争っている間 | 従来の額は払い続ける。止めると立場が悪くなる |
| 出ていく場合 | 保証金・工事・原状回復・休業・離れるお客様。何年分かになる |
今日やる一つ
契約書を出して、更新の日がいつかを確かめてください。そして、その半年前を手帳に書き込んでください。通知が来てから考えるのでは、時間が足りません。
よくある質問
値上げの通知が来たら、従うしかないのですか
通知は相手からの申し入れであって、決定ではありません。こちらが承諾して初めて新しい金額になります。慌てて署名せず、まず内容を確かめる時間を取ってください。
承諾しないまま更新の日が来たらどうなりますか
契約がその日で終わるわけではなく、従来の条件のまま続く形になることが一般的です。ただし契約の種類によって扱いが変わりますので、契約書を確かめてください。
理由を聞いてもよいのですか
聞いてよいのです。賃料を変えるには、周りの相場が上がった、土地や建物にかかる税が上がったといった事情が求められます。金額を決め直す話ですから、根拠を確かめるのは当然のことです。
こちらから下げてほしいと言えますか
言えます。増減を求める権利は貸す側だけのものではありません。周りの相場が下がった、近くに空きが増えたといった事情があれば、こちらからも申し入れられます。ただし、言えば通るというものではありません。
契約書のどこを見ますか
賃料の改定について何と書かれているか、更新のときの手続きと更新料の定め、契約の種類(期間が来たら終わる形かどうか)、中途で解約する場合の通知の時期と違約金。とくに契約の種類が重要です。
期間が来たら終わる契約だとどうなりますか
更新を前提とした話ができません。続けるかどうかは相手の判断になりますので、早い段階で意向を確かめてください。
交渉には何を持って行きますか
近隣の相場、自店の数字(売上に対する家賃の割合と、上がった場合の影響)、これまでの実績です。三つめは金額の根拠にはなりませんが、代わりを探す手間を相手に思い出させる材料になります。
折り合わない場合はどうしますか
金額ではなく条件で折り合う形(期間を長くする代わりに据え置く、上げ幅を段階に分ける)が成り立つことがあります。話し合いで決まらない場合の手続きも用意されていますが、時間も費用もかかりますので、その前に弁護士に相談してください。
争っている間、家賃はどうしますか
従来の額は払い続けてください。止めると、こちらの立場が悪くなります。
更新料は必ず払うものですか
契約に定めがあるかどうかで変わります。定めがなければ当然に払うものではありません。まず契約書を確認し、書かれている場合は金額と支払いの時期を確かめてください。
値上げを受けるか、出ていくか
出ていく側の費用を見誤らないでください。新しい物件の保証金や礼金、仲介の手数料、内装と設備の工事、いまの物件の原状回復、移転の期間に営業できないこと、お客様が付いてこないぶんの売上。月に一万円の値上げと比べると、何年分かに相当することが多くあります。
立ち退きを求められました
言われたとおりに従う必要はありません。相手にはそれなりの事情が求められますし、明け渡しにあたって金銭が支払われる形になることもあります。金額も条件も個別の事情によりますので、早い段階で弁護士に相談し、自分だけで返事をしないでください。
誰と話せばよいのですか
通知が管理会社から来ている場合、その担当者に決める権限があるとはかぎりません。「これはどなたが決めることですか」と確かめてください。取り次ぎの相手にいくら説明しても、伝わらないまま返事が来ます。
口頭で決まればよいですか
口頭で「では据え置きで」と言われても、それだけでは形になりません。決まったことは必ず書面にしてください。電話で話した場合も、そのあとに要点を書いた短い書面を送っておくと、あとで食い違いません。
家賃が遅れたことがあります
交渉の場でそこを持ち出されます。隠しても相手の記録には残っていますので、事情を先に説明できるようにしておいてください。そして、更新を控えているなら、それまでの数か月は確実に払ってください。直前の実績がいちばん見られます。
次の更新に備えて何をしますか
家賃が売上の何割かを把握しておくことと、更新の時期を手帳に入れておくことです。通知が来てから考えるのではなく、その半年前から考え始め、その時期に近隣の相場を一度見ておいてください。

