店を引き継ぐときのお金|代金だけでは足りない
公開: 2026年8月25日
Summary
営業しているサロンを引き継ぐとき、譲るときのお金を整理します。創業の融資とは相談のしかたが違うこと、物件の承諾が資金より先に来ること、代金のあとに続く支出、事業を引き継ぐことへの支援は契約の前に聞くこと、譲る側の税と受け取る時期、前受け金の整理、家族やスタッフに譲る場合の注意までを扱います。
同じ通りで20年やってきた店から、話がありました。体力の問題で閉めるつもりだが、設備も客も残っている。引き継ぐ気はないか、と。
悪い話ではありません。ゼロから作るより早く、お客様もついてきます。ただ、そこには金額が付いていました。設備と、店の権利と、いわゆる「これまで築いてきたもの」を含めた額です。
手元にその資金はありません。融資を受けるにしても、これは開業なのか、それとも別の何かなのか。そこから分かりませんでした。
譲り受けることも、譲ることも、実務の側はサロンの譲渡で扱われています。この記事では、そこに付いてくるお金の話だけを整理します。
創業とは、扱いが違うことがある
まず、引き継ぐ側から見ていきます。
ゼロから開業する場合、資金の相談は創業の枠で行われます。実績が無いため、計画と自己資金が見られます。
一方、営業している店を引き継ぐ場合は、その店の実績があります。何年やってきて、いくら売り上げ、いくら残っているのか。数字が既にあるのです。
つまり、見せられる材料が違います。そして、その材料があることは、こちらに有利に働きます。ゼロから説明するより、数字を示すほうが早く伝わります。
ですから、相談に行くときは「開業したい」ではなく「営業している店を引き継ぐ」と伝えてください。同じ融資でも、話の進み方が変わります。創業の融資で見られるものは日本政策金融公庫 創業融資 完全ガイドで扱っていますが、引き継ぐ場合はそこに実績が加わると考えてください。
数字をもらう前に、話を進めない
これが、いちばん大事なところです。
譲る側が示す金額には、根拠があるはずです。設備がいくら、内装がいくら、そして残りは何なのか。この内訳を聞かないまま、総額だけで判断しないでください。
そして、店の数字も見せてもらってください。直近の売上、経費、残った利益。できれば数年分です。
見せてもらえない場合は、そこで一度止まってください。買う側が数字を見られないというのは、成り立たない話です。
そのうえで、その数字が「引き継いだあとも続く数字か」を考えてください。前の方の人柄で来ていたお客様は、代替わりで離れます。何割が残るかは誰にも分かりませんが、全部が残るという前提だけは置かないでください。
物件が引き継げるかを、最初に確かめる
順番として、ここがいちばん先に来ます。
店を引き継ぐということは、その場所を使い続けるということです。ところが、賃貸の契約は自動的には移りません。大家や管理会社の承諾が要ります。
そして、承諾されるとはかぎりません。断られることもありますし、条件が変わることもあります。新しく契約し直す形になれば、敷金や礼金が改めて発生することもあります。
つまり、ここが通らなければ、金額の話にも資金の話にも意味がありません。
ですから、譲渡の話が出た段階で、真っ先に確認してください。「大家さんには話してありますか」。この一言です。話していないと言われたら、そこから先の話は保留にしてください。
なお、譲る側が大家に伝えていない段階で、こちらから直接連絡するのは避けてください。順序を飛ばすと、譲る側の立場が悪くなります。
引き継ぐお金は、それだけでは済まない
見落とされやすい点です。
譲渡の代金を用意すれば済む、と考えないでください。そのあとに、いくつも支出が続きます。
- 名義の変更や届出にかかるもの
- 直したい部分の改装
- 自分の名前で出す看板と印刷物
- 引き継いだ直後の運転資金
- 前の方に残ってもらう期間の費用
とくに最後の2つを見込んでいないと、引き継いだ直後に苦しくなります。代金を払い切って、手元に何も残っていない状態で始めることになるからです。
ですから、必要な金額は「譲渡の代金+その後の数か月」で考えてください。そして、その合計で相談してください。
名義と届出は、資金の前に確認する
順番の話です。
営業している店を引き継ぐ場合でも、登録や届出をそのまま引き継げるとはかぎりません。改めて手続きが必要になることがあります。
手続きの考え方は承継したサロンの登録の再申請で扱っています。ただし、扱いは自治体によって差がありますので、所轄の保健所に確認してください。
そして、この確認は資金の相談より先に済ませてください。手続きに時間がかかるなら、その期間は営業できません。営業できない期間があるなら、その分の運転資金も要ります。
つまり、手続きの見通しが立たないと、必要な金額も決まりません。
使える支援があるかを、確認する
事業を引き継ぐことに対して、公的な支援が設けられていることがあります。
ただし、対象になる形や、申請の時期は制度によって変わります。そして、こうした支援の多くは、契約を結ぶ前に動く必要がある型です。話がまとまってから調べても、間に合わないことがあります。
ですから、引き継ぐ話が具体的になった段階で、一度窓口に聞いてください。商工会議所や商工会、自治体の産業に関する窓口、そして金融機関です。
聞き方は、制度名を挙げないでください。「営業している店を引き継ぐ話があるのですが、使える支援はありますか」。これで足ります。
なお、支援があるかどうかで、引き継ぐかどうかを決めないでください。支援は上乗せです。無くても成り立つ話かどうかが先です。
譲る側のお金
ここからは、渡す側の話です。
受け取る代金には、税の扱いが伴います。何を譲ったかによって、扱いが変わることがあります。設備を売った分と、それ以外の分では、性質が違うためです。
ですから、金額を決める前に、内訳を分けて考えてください。そして、専門家に一度確認してください。手取りがいくらになるかは、決めた額とは違います。
そして、受け取る時期も決めてください。一括なのか、分割なのか。分割の場合、相手が続けられなくなったときにどうなるかも決めておく必要があります。
譲る側も、そのあとの支出がある
渡して終わりではありません。
閉じるのではなく譲る場合でも、こちらの側の手続きは残ります。届出、契約の名義、そして前もって預かっているお金の整理です。
とくに、回数券や前払いが残っている場合、それをどう扱うかを決めないまま譲らないでください。引き継ぐ側が受けるのか、こちらで清算するのか。ここが曖昧なままだと、あとでお客様が困ります。
閉じるときの手続きはサロンを閉めるときの手続きで扱っています。譲る場合も、重なる部分があります。
そして、引き継ぎの期間に自分が残るなら、その間の自分の収入も決めておいてください。無償で手伝う形にすると、期間が延びたときに困ります。
家族に譲る場合
同じ「譲る」でも、扱いが変わります。
代金をやり取りするのか、しないのか。しない場合、それは贈与の話になりえます。そして、他の家族がいる場合、あとから問題になることがあります。
家族での代替わりそのものは父の店を継ぐで扱っています。ただ、お金の側は、そこに書かれていない部分が多くあります。
金額をやり取りしない場合でも、何をいつ渡したかは記録に残してください。そして、専門家に確認してください。家族間だから簡単、ということはありません。
スタッフに譲る場合
働いていた人が引き継ぐ形もあります。
このとき、相手には資金がないことが多いのです。長く働いてきた方でも、まとまった額を用意できるとはかぎりません。
ですから、分割にする、あるいは金額を抑える判断が出てきます。ただ、その場合も書面にしてください。関係が近いほど、口約束になりがちです。
そして、引き継いだあとに続かなかった場合の扱いも決めておいてください。残りの支払いはどうなるのか。店をどうするのか。
なお、店ごと引き継ぐのではなく、屋号を使わせたうえで別の場所に出てもらう形もあります。この場合は、金額のやり取りを伴わないこともあります。どちらの形にするかで、必要な資金がまったく変わります。
数字が合わないなら、引き継がない
最後に、これを書いておきます。
引き継ぐ話は、たいてい良い話に見えます。お客様がついている、設備がある、すぐ始められる。
ただ、その店が続いてきたのは、前の方だったからかもしれません。そして、閉めることにした理由が、体力以外にある場合もあります。数字が伸びていないから、というのは、言われないことのほうが多いのです。
ですから、示された金額と、示された数字を、別々に見てください。金額に納得できても、数字が続かないなら成り立ちません。
そして、断ってもかまいません。断ったことで関係が悪くなるなら、それは最初から対等な話ではなかったということです。
| 立場 | 確認すること |
|---|---|
| 引き継ぐ側 | 金額の内訳/店の数字(数年分)/その数字が続くか |
| 必要な資金 | 譲渡の代金+名義と届出+改装+看板と印刷物+数か月の運転資金 |
| 順番 | 届出の見通し → 必要額の確定 → 資金の相談 |
| 支援 | 契約の前に窓口へ。制度名は挙げず「引き継ぐ話がある」と伝える |
| 譲る側 | 内訳ごとの税の扱い/受け取る時期/分割なら続かなかった場合 |
| 譲る側の残務 | 届出・契約の名義・前受け金の整理・引き継ぎ期間の自分の収入 |
| 家族へ | 代金をやり取りしない場合も記録を残す。他の家族への影響も見る |
| スタッフへ | 相手に資金が無いことが多い。分割でも書面にする |
今日やる一つ
引き継ぐ話が具体的にあるなら、金額の内訳と、直近数年の数字を出してもらってください。総額だけで判断しないでください。話が具体的でないなら、この記事は話が来たときのために置いておいてください。来るときは、たいてい急に来ます。
よくある質問
創業の融資とは違いますか
ゼロから開業する場合は計画と自己資金が見られますが、営業している店を引き継ぐ場合はその店の実績があります。見せられる材料が違いますので、相談に行くときは「開業したい」ではなく「営業している店を引き継ぐ」と伝えてください。
金額はどう判断しますか
内訳を聞いてください。設備がいくら、内装がいくら、残りは何なのか。総額だけで判断しないでください。あわせて、直近数年の売上・経費・残った利益も見せてもらってください。見せてもらえない場合は、そこで一度止まってください。
いくら用意すればよいですか
譲渡の代金だけでは済みません。名義の変更や届出、直したい部分の改装、自分の名前で出す看板と印刷物、引き継いだ直後の運転資金、前の方に残ってもらう期間の費用。「代金+その後の数か月」で考えてください。
物件はそのまま使えますか
賃貸の契約は自動的には移りません。大家や管理会社の承諾が要り、断られることも、条件が変わることもあります。新しく契約し直す形になれば、敷金や礼金が改めて発生することもあります。話が出た段階で「大家さんには話してありますか」と確認してください。
譲る側に借入が残っている場合は
その借入がこちらに移るのか、譲る側に残るのかを、書面で確かめてください。口頭で「こちらで返す」と言われても、それだけでは決まりません。金融機関の側の扱いがありますので、譲る側と一緒に確認してください。
届出は引き継げますか
そのまま引き継げるとはかぎらず、改めて手続きが必要になることがあります。扱いは自治体によって差がありますので、所轄の保健所に確認してください。そして、この確認は資金の相談より先に済ませてください。営業できない期間があれば、その分の資金も要ります。
使える支援はありますか
事業を引き継ぐことに対する支援が設けられていることがあります。ただし、契約を結ぶ前に動く必要がある型が多く、話がまとまってから調べても間に合わないことがあります。具体的になった段階で窓口に聞いてください。
支援があれば引き継ぐべきですか
支援は上乗せです。無くても成り立つ話かどうかが先です。支援があるかどうかで引き継ぐかを決めないでください。
譲る側の税金はどうなりますか
何を譲ったかによって扱いが変わります。設備を売った分と、それ以外の分では性質が違います。金額を決める前に内訳を分けて考え、専門家に確認してください。手取りは、決めた額とは違います。
分割で受け取ってもよいですか
かまいませんが、相手が続けられなくなったときにどうなるかを決めておいてください。残りの支払い、店の扱い。決めていないと、そのときに争いになります。
回数券が残っています
譲る前に扱いを決めてください。引き継ぐ側が受けるのか、こちらで清算するのか。曖昧なままだと、あとでお客様が困ります。閉じるときの手続きと重なる部分がありますので、あわせて確認してください。
引き継ぎ期間に残る場合は
その間の自分の収入を決めておいてください。無償で手伝う形にすると、期間が延びたときに困ります。
家族に譲る場合は
代金をやり取りしない場合、贈与の話になりえます。そして、他の家族がいる場合はあとから問題になることがあります。金額をやり取りしない場合でも、何をいつ渡したかを記録に残し、専門家に確認してください。
スタッフに譲る場合は
相手に資金が無いことが多く、分割や金額を抑える判断が出てきます。その場合も書面にしてください。関係が近いほど口約束になりがちです。引き継いだあとに続かなかった場合の扱いも決めておいてください。
良い話に見えるのですが
その店が続いてきたのは、前の方だったからかもしれません。閉める理由が体力以外にある場合もあり、数字が伸びていないというのは言われないことのほうが多いのです。示された金額と数字を別々に見て、納得できなければ断ってかまいません。

