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接客・カウンセリング

同業の方が客として来たとき|気づいても、何も変えない

公開: 2026年8月25日

Summary

他店の施術者が客として来店したときの構え方を整理します。こちらから確認しないこと、いつもどおりが正しい理由、聞くことを省いてしまう危険、技術の話をどこまでするか、料金を割り引くかの決め方、記録とスタッフへの扱い、自分が客として行くときまでを扱います。

カウンセリングの途中で、髪の状態を説明していたときでした。相手の言葉に、専門の用語が混じりました。何気ない一言でしたが、一般のお客様が使う言い方ではありません。

そこで気づきました。この方は、同業だ。

そこから先、手の動きが変わりました。いつもより丁寧に、いつもより慎重に。頭のなかでは「見られている」という考えが回り続けています。仕上がりは悪くなかったはずですが、終わったときにはひどく疲れていました。

同業の方が客として来るのは、めずらしいことではありません。近所の店の方、勤めている方、辞めて別の仕事に就いた方。そして、その多くは何も言わずに帰っていきます。この記事では、そういうときにどう構えるかを整理します。

やってしまいがちなことと、やることを並べた図。左は丁寧にしようとして手が遅くなる、説明を増やす、いつもならしない確認を挟む、「業界の方ですか」と聞く。右は気づいた瞬間に普段の手順へ戻す、向こうから言われたら「そうなんですね」、聞かれたことには普通に答える、自分の店のやり方をそのままやる。
やってしまいがちなことと、やることを並べた図。左は丁寧にしようとして手が遅くなる、説明を増やす、いつもならしない確認を挟む、「業界の方ですか」と聞く。右は気づいた瞬間に普段の手順へ戻す、向こうから言われたら「そうなんですね」、聞かれたことには普通に答える、自分の店のやり方をそのままやる。

気づいても、こちらから触れない

まず、これを決めておいてください。

同業だと分かっても、「もしかして、この業界の方ですか」と聞かないでください。当てられて嬉しい方もいますが、そうでない方のほうが多いものです。

わざわざ名乗らずに来ているということは、一人の客として過ごしたいという意思表示でもあります。そこに気づいたと伝えるのは、その意思をこちらから崩すことになります。

向こうから言われた場合だけ、そこから話が始まります。「実は私も美容師で」と言われたら、「そうなんですね」で受けてください。驚いてみせる必要も、身構える必要もありません。

いつもどおりが、いちばん難しく、いちばん正しい

気づいたあとに何をするか。答えは、何も変えないことです。

ただ、これが難しい。丁寧にしようとして手が遅くなり、説明を増やして話が長くなり、いつもならしない確認を挟む。どれも良かれと思ってのことですが、相手から見れば「いつもと違う店」になっています。

そして、同業の方はそこに気づきます。手が止まった瞬間も、余計な説明も、たいてい伝わっています。

ですから、気づいた瞬間に一度、意識して普段の手順に戻してください。自分の店のやり方を、そのままやる。それが、いちばん見せられるものです。

見られている、という感覚について

正直に書くと、この感覚は消えません。同じ仕事をしている人に自分の手元を見られるのは、誰でも緊張します。

ただ、相手が見ているものは、こちらが心配しているものとは違います。

技術の細かい良し悪しを採点しに来ているわけではありません。多くの場合、その方はただ髪を切りに来ているか、疲れを取りに来ています。そして、自分の店ではできないことをしてもらいに来ています。

そもそも、同業の方はプロの手元を毎日見ています。少しくらい手順が違っても、それを「間違い」とは思いません。やり方は店によって違う、と誰よりも知っているからです。

聞くことを省いてしまう危険を示した図。飛ばされやすいのは髪や肌の状態、体調、薬の使用、過去に合わなかったもので、どれも専門知識とは関係のないその人固有の情報。聞かれなかった側はプロを相手に言い出しにくく、いちばん確認の薄い施術になる。下段に「ご存じかと思いますが」の前置きも要らないと書かれている。
聞くことを省いてしまう危険を示した図。飛ばされやすいのは髪や肌の状態、体調、薬の使用、過去に合わなかったもので、どれも専門知識とは関係のないその人固有の情報。聞かれなかった側はプロを相手に言い出しにくく、いちばん確認の薄い施術になる。下段に「ご存じかと思いますが」の前置きも要らないと書かれている。

技術の話を、どこまでするか

聞かれたら答えてかまいません。ただ、こちらから講義を始めないでください。

同業だと分かった瞬間に、使っている薬剤の話や手順の説明を始めたくなることがあります。専門の話ができる相手は貴重ですし、認めてもらいたい気持ちも出ます。

けれども、相手は客として来ています。施術を受けに来た時間に、業界の話を聞かされるのは疲れます。

聞かれたことには、普通に答えてください。使っているもの、選んだ理由、この髪質にどう合わせたか。隠す必要はありません。

聞くことを、省かない

これが、この場面でいちばん危ないところです。

相手が同業だと分かると、質問がしにくくなります。「これくらいは分かっているだろう」「聞くと失礼だろうか」。そう考えて、普段なら必ず聞いていることを飛ばしてしまいます。

飛ばされやすいのは、髪や肌の状態、体調、薬の使用、過去に合わなかったもの。どれも、専門の知識があるかどうかとは関係のない、その人固有の情報です。

そして、聞かれなかった側は、自分から言い出しにくくなります。プロを相手に「そこは確認しないんですか」とは言えません。結果として、いちばん確認が薄い施術になってしまいます。

ですから、同業だと分かったときこそ、いつもの質問をそのまま聞いてください。「ご存じかと思いますが」という前置きも要りません。決まった手順として聞けば、相手も普通に答えます。

問診の項目そのものは初回カウンセリングシートの作り方で扱っています。紙に落としてあれば、相手が誰でも同じように聞けます。

常連になった場合

一度きりで終わらず、通ってくださるようになることがあります。

このとき、関係が少しずつ変わっていきます。技術の話をする回数が増え、業界の話題が出て、そのうち相談めいた話も入ってきます。

悪いことではありませんが、どこかで線を引いておかないと、施術の時間が業界の情報交換の場になります。そして、そうなると仕上がりへの集中が落ちます。

対処は単純で、施術中は施術の話をする、と決めておくことです。他の話は、会計のあとの数分に寄せる。それだけで、時間の質が保てます。

手順を真似されるのではないか

この不安は、多くの方が持ちます。

ただ、実際のところ、施術を1回受けただけで手順を再現できることはほとんどありません。そして、仮に真似されたとしても、同じ結果にはなりません。同じ道具と同じ薬剤を使っても、店ごとに仕上がりが違うのは、そういうことです。

そもそも、隠せるものではありません。手を動かしているところは見えていますし、鏡もあります。

隠そうとして不自然に手を隠したり、説明を濁したりするほうが、印象に残ります。堂々とやるほうが、結果として得です。

なお、近所の店の方だと分かっている場合は、少し話が変わります。ただ、その場合も対応は同じで、いつもどおりにやることです。手を抜けば、それこそ地域で語られます。

料金を割り引くかどうか

決めておいてください。その場で判断すると、後から困ります。

同業割引を作るという選び方もあります。ただ、作るなら基準を決めてください。何をもって同業とするのか、どこまで割り引くのか。曖昧なままだと、そのつど違う扱いになります。

作らないという選び方も、まったく問題ありません。むしろ、こちらのほうが多いはずです。「どなたにも同じ料金でお願いしております」で足ります。

そして、名乗られたからといって、その場で値引きしないでください。相手も期待していないことがほとんどですし、値引くと「そういう扱いをする店」として記憶されます。

相手のほうが経験が長い場合

これは、気持ちの問題です。

20年やってきた方が客として座られると、こちらの手元が急に頼りなく感じられます。特に、独立して間もない時期はそうです。

ただ、その方が来ているのは、自分で自分の髪を切れないからです。技術の優劣とは関係のない理由で、そこに座っています。

そして、経験の長い方ほど、他人の仕事に口を出しません。自分がされて嫌なことを知っているからです。

こちらが萎縮すると、その空気が伝わります。堂々としてください。少なくとも、その施術についてはこちらが担当者です。

記録には、書かない

同業であることを、記録に書く必要はありません。

書けば、次に読む人の態度が変わります。そして態度が変わることが、いちばん避けたいことです。

書くのは、いつもと同じ項目です。施術の内容、使ったもの、希望、避けた部位。同業かどうかは、施術の判断に関係しません。

記録の書き方そのものは施術の記録の書き方で扱っています。事実だけを書くという原則は、この場面でも同じです。

記録・スタッフ・料金の3つを示した図。記録に「同業」と書かない(次に読む人の態度が変わる)、スタッフに伝えない(全員が普段と違う動きをする)、ただし方針だけは共有する(気づいてもいつもどおりでよい)。下段に、料金は先に決めておきその場で値引きしないこと、問題は相手ではなくこちらが意識してしまうことにあると書かれている。
記録・スタッフ・料金の3つを示した図。記録に「同業」と書かない(次に読む人の態度が変わる)、スタッフに伝えない(全員が普段と違う動きをする)、ただし方針だけは共有する(気づいてもいつもどおりでよい)。下段に、料金は先に決めておきその場で値引きしないこと、問題は相手ではなくこちらが意識してしまうことにあると書かれている。

スタッフにも、伝えない

同じ理由です。

「あの方、同業らしいよ」と伝えた時点で、店の空気が変わります。全員が意識し、全員が普段と違う動きをします。

伝えるとすれば、施術に必要な情報だけです。それ以外は要りません。

そして、スタッフが自分で気づいた場合に備えて、方針だけは共有しておいてください。「気づいても、いつもどおりでよい」。この一言があるだけで、若いスタッフが慌てずに済みます。

名前で気づく場合がある

予約の時点で分かることもあります。近所の店の方であれば、名前を見て分かることがあります。

このとき、当日までに構えすぎないでください。前の晩から考えていると、当日いちばん硬くなります。

準備としてやるのは、普段どおりの準備だけです。道具を整え、店を掃除し、いつもどおり迎える。特別な準備をしないことが、この場合の準備になります。

なお、予約の名前と実際の方が違う場合もあります。名前の扱いそのものはお客様の名前の扱いで整理しています。

相談として来られた場合

まれに、客としてではなく、相談として来られることがあります。開業を考えている、経営について聞きたい、辞めるか迷っている。

このときは、施術と分けて考えてください。施術の時間に相談を受けると、どちらも中途半端になります。

そして、答えられる範囲を決めておいてください。自分の店でやっていることは話せますが、その方の店をどうすべきかは分かりません。「うちはこうしています」までにとどめるのが安全です。

なお、同業との距離のとり方そのものはお客様との距離の設計の考え方が使えます。相手が同業でも、店に来ている以上は客として扱う、という線です。

自分が客として行くとき

逆の立場も、考えておいてください。

同業として他店に行くときは、名乗らないほうが気楽です。名乗った瞬間から、相手が構えます。

そして、施術中に技術の話を振らないでください。相手は仕事中で、こちらは客です。聞きたいことがあるなら、別の場で聞くほうが筋が通ります。

見せてもらっているという意識で座ると、得るものが増えます。批評しに行くのではなく、一人の客としてどう感じるかを見る。そのほうが、自分の店に持ち帰れるものが多くなります。

気づかないほうが、うまくいくこともある

最後に、これを書いておきます。

気づかずに終えた施術のほうが、うまくいっていることがあります。何も知らずに、いつもどおりやっただけの日です。

つまり、問題は相手が同業であることではなく、こちらが意識してしまうことにあります。

ですから、対応として決めておくことは、実は1つだけで足ります。気づいても、何も変えない。これだけです。あとの細かい判断は、すべてここから出てきます。

会話の型そのものはサロンの会話の設計で扱っています。相手が同業でも、使う型は同じです。

場面することしないこと
気づいたとき普段の手順に戻す「業界の方ですか」と聞く
施術中いつもどおり丁寧にしすぎる/説明を増やす
技術の話聞かれたら答えるこちらから講義を始める
料金基準を決めておく(作らない選択も可)その場で値引きする
記録いつもと同じ項目「同業」と書く
スタッフ方針だけ共有(いつもどおりでよい)「あの方、同業らしい」と伝える
相談として来た施術と分ける。「うちはこうしています」までその方の店の相談に乗り込む

今日やる一つ

「気づいても、いつもどおり」。この一言を、自分に対して決めておいてください。スタッフがいるなら、そのまま共有してください。判断が1つ決まっているだけで、気づいた瞬間に手が止まらずに済みます。

よくある質問

同業だと気づいたら、確認してよいですか

聞かないでください。わざわざ名乗らずに来ているということは、一人の客として過ごしたいという意思表示でもあります。向こうから言われた場合だけ、「そうなんですね」で受けてください。

どう対応すればよいですか

何も変えないことです。丁寧にしようとして手が遅くなり、説明を増やし、余計な確認を挟む。どれも良かれと思ってのことですが、相手から見れば「いつもと違う店」になり、そこに気づかれます。

見られていると思うと緊張します

消えない感覚ですが、相手が見ているものはこちらが心配しているものとは違います。多くの場合、その方は自分の店ではできないことをしてもらいに来ています。そして同業の方は、やり方が店によって違うことを誰よりも知っています。

技術の話はどこまでしますか

聞かれたら普通に答えてください。使っているもの、選んだ理由、この髪質にどう合わせたか。隠す必要はありません。ただし、こちらから講義を始めないでください。相手は客として来ていますので、業界の話を聞かされるのは疲れます。

手順を真似されませんか

1回受けただけで手順を再現できることは、ほとんどありません。仮に真似されても、同じ結果にはなりません。そもそも手元は見えていますし、鏡もあります。隠そうとするほうが印象に残ります。

料金を割り引くべきですか

決めておいてください。同業割引を作るなら基準も決めます。作らないという選び方も問題なく、「どなたにも同じ料金でお願いしております」で足ります。名乗られたその場で値引きしないでください。

相手のほうが経験が長い場合は

その方が来ているのは、自分で自分の髪を切れないからです。技術の優劣とは関係のない理由でそこに座っています。経験の長い方ほど他人の仕事に口を出しません。萎縮すると空気が伝わります。

記録に書きますか

書かないでください。書けば、次に読む人の態度が変わります。同業かどうかは施術の判断に関係しません。いつもと同じ項目で足ります。

スタッフには伝えますか

伝えないでください。伝えた時点で店の空気が変わり、全員が普段と違う動きをします。ただし、スタッフが自分で気づいた場合に備えて、「気づいてもいつもどおりでよい」という方針だけは共有しておいてください。

予約の名前で分かった場合は

当日までに構えすぎないでください。前の晩から考えていると、当日いちばん硬くなります。特別な準備をしないことが、この場合の準備になります。

相談として来られたら

施術と分けて考えてください。施術の時間に相談を受けると、どちらも中途半端になります。答えられる範囲も決めておき、「うちはこうしています」までにとどめるのが安全です。

自分が客として他店に行くときは

名乗らないほうが気楽です。名乗った瞬間から相手が構えます。施術中に技術の話も振らないでください。一人の客としてどう感じるかを見るほうが、自分の店に持ち帰れるものが多くなります。