賃上げに使える支援|上げると決めた時点で、一度止まる
公開: 2026年8月26日
Summary
スタッフの給与を上げるときに使える公的な支援を、税が軽くなる型と助成金の型に分けて整理します。動く順番が逆になること、聞く先が税と雇用で分かれること、制度が枠組みごと変わること、社会保険料も一緒に上がること、原資をどこから作るか、上げたあとに残す記録、複数いる場合の扱いまでを扱います。
スタッフの時給を上げることにしました。地域の最低賃金が上がり、いまの額では下回ってしまうからです。上げないという選択肢はありません。
そのとき、知り合いに言われました。「賃上げに使える制度、確認した?」。
調べてみると、たしかにありました。ただ、種類が2つあり、性質がまったく違います。そして片方は、上げる前に動かないと使えない形になっていました。すでに上げると決めて本人にも伝えたあとでした。
この記事では、賃上げに関わる公的な支援の構造を整理します。制度の名称、率、上限、申請の時期は年度によって変わり続けるため、書きません。どういう型があり、どの順番で確認するかだけを扱います。
支援には、2つの型がある
まず、ここを分けてください。混ぜて考えると、どちらも使えません。
1つめは、税が軽くなる型です。給与の支払いを一定以上増やした結果に対して、納める税から差し引く形になります。上げたあとに、申告のときに適用します。
2つめは、助成金の型です。賃金を上げることと、生産性を上げるための設備投資を、セットで求められる形が代表的です。こちらは、上げる前に申請する順番になっていることがあります。
つまり、1つめは結果に対する優遇で、2つめは計画に対する支援です。だから、動く順番が違います。
そして、2つめのほうが取りこぼしやすいのです。上げてから調べても、遡れないことがあります。
上げると決めた時点で、一度止まる
具体的な手順です。
賃上げを検討しはじめた段階、つまり「いくら上げるか」を考えている段階で、一度確認してください。本人に伝えたあとでは遅い場合があります。
確認するのは3つです。
- 上げる幅が、支援の対象になりうる水準か
- 設備投資とセットにする形が使えるか
- 申請の受付が、いまの時期に開いているか
3つめが現実的な壁になります。助成金の型には、年度ごとの受付期間があることが一般的です。締切を過ぎていれば、その年度は使えません。
そして、最低賃金の改定に合わせて上げる場合、その時期と受付の時期が重なります。込み合う時期に慌てて申請することになりますので、早めに動いてください。
聞く先は、雇用の窓口
税の側と、助成金の側で、聞く先が違います。
税が軽くなる型については、顧問の税理士か、税務署の相談窓口です。ただし、税理士に頼んでいても契約の範囲に入っていないことがありますので、「これは相談できますか」と先に確認してください。
助成金の型については、労働局やハローワーク、そして社会保険労務士です。雇用に関わる支援は、こちらの系統になります。
聞き方は、制度名を挙げないでください。「◯月に時給を◯円上げる予定なのですが、使える支援はありますか」。こう聞けば、こちらが知らないものも含めて教えてもらえます。
制度は、枠組みごと変わる
この分野の前提として、押さえておいてください。
支援の内容は毎年見直されます。上乗せの要件が追加されることも、逆に廃止されることもあります。そして、制度そのものの名称が変わることもあります。
ですから、数年前に調べたときの記憶で判断しないでください。同業の方から聞いた話も、その方が使った年度と今年とでは違うことがあります。
つまり、賃上げを考えるたびに、そのつど確認するしかありません。「前回と同じだろう」という前提が、いちばん外れます。
上げると、社会保険料も上がる
数字の話です。ここを見落とすと、思ったより負担が重くなります。
給与を上げれば、それに応じて社会保険料も変わります。そして、事業主が負担する分も増えます。
つまり、時給を上げた分だけが増える支出ではありません。その上に、保険料の増加分が乗ります。
ですから、上げる幅を決めるときは、給与だけで計算しないでください。手続きの考え方は初めてスタッフを雇うときの労働保険・社会保険手続きで扱っています。負担の構造は、そこが下敷きになります。
そして、支援によって軽くなる分があるとしても、それは後から来ます。増える支出は毎月です。この時期のずれを、資金繰りの表に入れておいてください。作り方はサロンの資金繰り表を5行で作るで扱っています。
一度上げたら、下げられない
これが、いちばん重い制約です。
支援があるからといって、支援の期間だけ上げて、終わったら戻す。この形は取れません。給与を下げることは、簡単にはできません。
そして、助成金の型では、下げないことが条件になっていることがあります。受け取ったあとに下げれば、返還の話になりえます。
ですから、支援を理由に上げる幅を決めないでください。支援が無くても続けられる幅を決めて、そのうえで使える支援があれば使う。この順序です。
上げる原資を、どこから作るか
支援は、原資そのものにはなりません。ここを正直に見てください。
支援で軽くなるのは一度きり、あるいは期間限定です。一方、上げた給与は毎月続きます。差額は、どこかから作る必要があります。
作り方は2つしかありません。単価を上げるか、同じ時間で受けられる件数を増やすか。
そして、この2つは同時には追えません。考え方はカット単価を上げるか、回転を上げるかで扱っています。
価格を上げる場合、その伝え方も要ります。サロンの値上げで扱っていますが、賃上げを理由として掲げるかどうかは、慎重に決めてください。理由を掲げると、次に上げるときにも同じ理由が求められます。
設備投資とセットにする形
助成金の型で、よく出てくる組み合わせです。
賃金を上げることに加えて、生産性を上げるための設備を導入する。この2つをセットで求められる形があります。
サロンでこれに当たりうるのは、施術の時間を短くする機器、予約や会計の手間を減らす仕組み、体の負担を減らす設備などです。ただし、何が対象になるかは制度によって定められています。
ここで気をつけたいのは、支援があるからといって、要らない設備を入れないことです。入れた設備は、そのあとも使い続けることになります。使わない設備は、置き場所と管理の手間だけが残ります。
必要な設備があり、そのうえで賃上げも予定している。この順番が揃ったときにだけ、この形は効きます。
上げたあとにやること
受け取って終わりではありません。
まず、記録を残してください。いつ、いくら上げたか。誰の給与を、どういう理由で。そして、どの支援を使ったか、使わなかったか。
理由は2つあります。1つは、支援を受けた場合に、あとから状況を確認されることがあるためです。もう1つは、次に上げるときの判断材料になるためです。
そして、上げたことを本人に正しく伝えてください。支援があったから上げた、という言い方はしないでください。制度が終われば戻るのかと思わせます。
評価と昇給の伝え方はスタッフの評価と昇給で扱っています。金額の話と、理由の話を分けることが要点になります。
複数いる場合、1人だけ上げない
小さな店ほど、これが問題になります。
支援の対象になる形を作ろうとして、特定の1人だけを上げる。あるいは、いちばん低い人だけを最低賃金に合わせる。どちらも、他の人に見えます。
給与の額そのものは知られていなくても、上がったかどうかは伝わります。表情でも、態度でも、そして本人が話すこともあります。
ですから、1人を上げるなら、他の人をどうするかも同時に決めてください。据え置くならその理由を説明できる形にし、全員上げるならその原資を先に計算してください。
支援の要件に合わせて配分を決めると、この説明が難しくなります。要件ではなく、自分の店の考え方で決めたうえで、そこに使える支援があれば使う。ここでも順序は同じです。
上げなかった場合に、起きること
比較のために書いておきます。
まず、最低賃金を下回っている場合は、上げないという選択肢がありません。ここは判断の余地がありません。
下回っていない場合でも、周辺の店が上げていれば、差は伝わります。求人を出したときに応募が来なくなり、いま働いている人にも別の選択肢が見えます。
そして、辞められたあとに採用しようとすると、そのときの相場で募集することになります。結果として、上げるより高くつくことがあります。
つまり、上げない判断も、コストを伴います。両方を数字にしてから決めてください。
一人でやっている店には、関係がない
正直に書いておきます。
この記事で扱ってきた支援は、雇用していることが前提です。従業員がいなければ、対象になりません。
そして、自分の取り分を増やすことは、賃上げとは扱われません。個人事業主が自分に払うお金は、給与ではないためです。
ですから、一人で営んでいる場合、この分野に時間を使う必要はありません。人を雇う予定が出てきた段階で、この記事に戻ってきてください。
最低賃金の改定に、先回りしておく
最後に、実務的な話をします。
地域の最低賃金は、定期的に見直されます。そして、改定されれば、下回っている場合は上げざるを得ません。
ですから、改定の時期を毎年カレンダーに入れておいてください。改定の内容が示されてから対応すると、時間がありません。
そして、そのタイミングは助成金の受付時期とも重なります。先に予定を知っていれば、慌てずに確認できます。
なお、最低賃金は下回ることが許されません。歩合を含む形で払っている場合は、その計算も確認してください。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 検討しはじめた | 一度止まる。本人に伝える前に確認する |
| 確認する3つ | 幅が対象になりうるか/設備投資とセットにできるか/受付が開いているか |
| 聞く先 | 税=税理士・税務署/助成金=労働局・ハローワーク・社労士 |
| 聞き方 | 制度名を挙げず「◯月に◯円上げる予定だが使える支援はあるか」 |
| 計算 | 給与だけで計算しない。社会保険料の増加分も乗る |
| 幅の決め方 | 支援が無くても続けられる幅にする(下げられないため) |
| 原資 | 単価か件数。支援は原資にならない |
| 上げたあと | いつ・いくら・誰の・どの支援を使ったかを記録 |
| 毎年 | 最低賃金の改定時期をカレンダーに入れておく |
今日やる一つ
次に賃金を上げる可能性がある時期を、カレンダーに書いてください。そして、その2か月前に「支援の確認」と書き足してください。本人に伝えたあとで調べても、間に合わないことがあります。従業員がいない場合は、雇うと決めた日にこの記事を思い出してください。
よくある質問
賃上げに使える支援はありますか
2つの型があります。給与の支払いを一定以上増やした結果に対して納める税が軽くなる型と、賃金を上げることと生産性向上の設備投資をセットで求められる助成金の型です。性質が違うため、動く順番も違います。
いつ確認すればよいですか
上げる幅を考えている段階です。本人に伝えたあとでは遅い場合があります。とくに助成金の型は、上げる前に申請する順番になっていることがあり、上げてから調べても遡れないことがあります。
どこに聞きますか
税が軽くなる型は顧問の税理士か税務署、助成金の型は労働局やハローワーク、社会保険労務士です。税理士に頼んでいても契約の範囲に入っていないことがありますので、先に確認してください。
制度名で調べればよいですか
名称は変わります。制度そのものの枠組みが変わることもありますし、上乗せの要件が追加されたり廃止されたりもします。制度名を挙げず「◯月に◯円上げる予定だが、使える支援はあるか」と聞くほうが、知らないものも含めて教えてもらえます。
給与を上げた分だけ支出が増えますか
それだけではありません。給与が上がれば社会保険料も変わり、事業主が負担する分も増えます。給与だけで計算すると、思ったより重くなります。
支援の期間が終わったら、下げてもよいですか
給与を下げることは簡単にはできません。そして助成金の型では、下げないことが条件になっていることがあり、受け取ったあとに下げれば返還の話になりえます。支援が無くても続けられる幅を決めてください。
上げる原資はどう作りますか
支援は原資になりません。軽くなるのは一度きりか期間限定で、上げた給与は毎月続きます。単価を上げるか、同じ時間で受けられる件数を増やすか。この2つしかなく、同時には追えません。
値上げの理由に使ってよいですか
慎重に決めてください。理由を掲げると、次に上げるときにも同じ理由が求められます。賃上げを理由として前面に出すかどうかは、店の伝え方の設計として考えてください。
設備投資とセットにする形とは
賃金を上げることに加えて、生産性を上げる設備を導入する形です。サロンでは施術の時間を短くする機器や、予約と会計の手間を減らす仕組みなどが当たりえます。ただし、支援があるからといって要らない設備を入れないでください。使わない設備は、置き場所と管理の手間だけが残ります。
上げたあとに何を残しますか
いつ、いくら、誰の給与を、どういう理由で上げたか。そして、どの支援を使ったか、使わなかったか。支援を受けた場合はあとから状況を確認されることがありますし、次に上げるときの判断材料にもなります。
本人にはどう伝えますか
支援があったから上げた、という言い方はしないでください。制度が終われば戻るのかと思わせます。金額の話と、上げた理由の話を分けて伝えてください。
一人でやっている場合は
対象になりません。この分野の支援は雇用していることが前提で、個人事業主が自分に払うお金は給与として扱われないためです。人を雇う予定が出てきた段階で確認してください。
最低賃金の改定にはどう備えますか
改定の時期を毎年カレンダーに入れておいてください。内容が示されてから対応すると時間がありません。そして、その時期は助成金の受付時期とも重なります。歩合を含む形で払っている場合は、その計算も確認してください。

